【芸能ニュース】 平成二十八年十月二十八日に東京・六本木にて、『特別セミナー「中国映画界の今」/TIFF』が開催され、映画興行収入が世界第二位の中国から「中国電影 股份有限公司」の総経理(代取)を務めるジャン・ピン、「北京電影学院」の薫事長(理事長)であるホウ・グァンミンとフォ・ジェンチイ監督が来日し講演を行った。米国映画協会の「Theatrical Market Statistics 2015」によれば、昨年の映画興行収入は米国で一.二兆円、中国で〇.八兆円、日本は〇.二兆円だ。
前年比で五十㌫増の中国の市場規模は、アジア・太平洋地域の興行収入の実に半数を稼ぐ。今回来日した「中国電影 股份有限公司」の親会社は国営「中国電影集団公司(600977.SS)」。中国最大の映画会社で市場シェア(興行収入や映画館数)を半数も占める。日本最大手の東宝(9602.T1)がおよそ七社分以上の実力を有す。その主要子会社の代取が、ジャン・ピンだ。
<米印を抜く為に日本から人材を引き抜く代取>
ジャン総経理は冒頭、「日本映画を観て育った。」と映画観の根底を語った。ジャン総経理自体が監督業もでき、カイロとモスクワ映画祭にて自身の監督作品が受賞している。昭和五十一年の高倉健が主演した日本映画「君よ憤怒の河を渉れ/松竹」のロケ地等を来日した際には巡った事がある。同作は再来年に台湾ジョン・ウー監督によるリメイク版「追捕 MANHUNT」を公開予定だ。ジャン総経理は非常に野心的だ。中国の市場規模は米国に迫る勢いだが、「まだ強い映画大国ではない。」と断じ、米印と二、三倍の開きがある映画生産量を埋める意志をみせた。
中国では毎日、二十のスクリーン(映画館)が増えていると伝え、「一緒に映画を創りましょう。特に日本の若者と。」と日本からの映画人材を希求した。同社がアジア最大のプロダクションやPR基地を有している点をアピールし、先ずは観光に来中して社内を見学して欲しいと学生達へ直に手を差し伸べた。「映画製作は実践を重んじる学問であります。」と学生の問いにも複数応え、日中合作の場合は共通テーマとなる「LOVE」「ACTION」「COMEDY」を推奨した。
映画は学問という理事長
中国最大の映画学校である開校六十六年目の「北京電影学院」のホウ薫事長は、自身が研究者で科学者、経営者である点から自己紹介をした。同学院は「中国電影」に数多くの映画人材を送り出しており、一蓮托生の関係だ。こちらも日本からの留学生を望み、同学院のプレゼンをスライドを利用しながら、ホウ薫事長が自ら日本語で行った。映画教育は総合芸術と位置付け、開校初期はソ連から基礎的な映画学問を輸入し、三十年前の開放政策により米国のハリウッド学問を輸入し始めた。現在は同学院のカリキュラムが米ソの中間的な位置付けており、映画の学問以外にも応用経済学等を含めた十六学部がある点を伝えた。
人材育成の目標としては、「機能(職務遂行)系」「創新(クリエイティヴ)系」「大師(マスター)系」の三つを掲げる。毎年、小中学校の校長を四名程も輩出している点もアピール。中国では小中学生から映画教育が施されている(七年一貫)。また同学院は世界に十八のセンタを有し、世界の映画に関する教育・研究・製作を学べる点を特徴と自負。中国政府からは毎年、億単位の支援があり、現在は未来科学(映画芸術と科学の融合)に力点を置く。更に同学院の入試における倍率が二百倍近く、清華大(世界第二十四位)や北京大(三十九位)に合格できる生徒もいる点を伝えた。順位は、英「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(二〇一六-一七)」より。東大は三十四位。
社会に合わせず、強烈な自己表現を生徒に求める監督
フォ監督は同学院を卒業し、モントリオールや上海、東京の映画祭で受賞した経歴をもつ。フォ監督の特異点は元々が美術の学部で勉強し、現場でも美術として十年間も働いて、監督業に転身した点だ。この点をフォ監督は中国では、そんなに変わった事ではないと話した。フォ監督の世代は「第五世代」と呼ばれる。同学院の同窓は少なく(二百名程度)、結束力が強くなり、課題の提出等で皆で協力しながら映画を作っていく。例えば九十分の尺を十分ずつ、各自が担当する。その為、どの学部にいても映画製作の流れは卒業までに覚えてしまうと軽い口調で答えた。
そして現代の中国のテーマに移ると、フォ監督は語気を強めた。「社会が何を求めるかを考えない。」と、映画は芸術であり人間の本質(情感、人生観、想い)を描くべきとした。強烈な自己表現と他への啓発も重要で、徹底的な個性の追求が芸術的映画の魅力と学生らに諭した。尚、本年は米アカデミー賞を受賞したインドとの合作「大唐玄奘」をフォ監督は作った(全編がYTで公開されている)。玄奘の人間模様を描いている。
中国映画界を牽引する三人の講義は、日本の学生及び記者達に世界を見せた。
『特別セミナー「中国映画界の今」/TIFF2016』
記者:金剛正臣×撮影:原田眞吾
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