『第十次 東京都職業能力開発計画』の順序の間違い

【社会考察】 東京都(知事:小池百合子)は、平成二十九年三月に『第十次 東京都職業能力開発計画』を策定した。同計画は『職業能力開発促進法』に基づき、国の「第十次 職業能力開発基本計画」を受けて都が策定したもの。期間は昨年度から三十二年度迄の五ヶ年。昨年末に公表した「都民ファーストでつくる『新しい東京』~二〇二〇年に向けた実行プラン~(既報)」を踏まえている。


都は、この実行プラン(三十二年迄)で都GDPを百二十兆円に据えた。同計画では労働生産性を重視している。都知事も定例会見等で幾度も、労働生産性の重要さについて語っている。背景の都の人口は、二十三年の五輪から二年後をピークに減少に転じる。




<人材育成>

 同計画では労働生産性の状況を説明。OECD平均を下回り、無形資産(人材育成)への投資が欧米と比べて低水準。米独とは十倍の差がある。国内の労働生産性では、資本金が十億円以上で千三百万円、十億円未満になると八百万円を切る。資本金が一千万円未満で五百万円に落ち込む(「平成二十六年度 法人企業統計調査/財務省」平成二十八年三月)。


都は企業の人材育成の状況を調べた。参加させたい研修内容は若年・中堅技術者で「一人で複数の異なる作業や工程を遂行する技術習得を目指した、体型的な研修」がトップ。指導者で「部下の指導の仕方」がトップ。技能系正社員に求める能力のトップ3は、「問題改善能力」「多能工化」「IT」が並んだ(労働政策研究・研修機構調べ)。人材育成の問題点には「指導者不足」「時間が無い」が挙がった(厚労省調べ)。



都の施策は如何に

 都は第九次計画迄に、ハード面でブロック割(中央・城北、城東、城南、多摩)と各ブロックへの職業能力開発センタの設置等を行い、ソフト面で公共職業訓練等を実施。ここでの都の課題にも、職業能力開発による労働生産性の向上を一番に挙げている。


上記より本計画は、基本的四方向性を掲げた。

  1. 人材育成を通じた、企業の生産性向上の支援
  2. 多様な人材の職業能力開発による全員参加型社会の実現
  3. 技能の振興
  4. 効果的・効率的な職業能力開発の推進


一では、生産性向上を狙う「カイゼン」人材の育成に対する支援が目立つ。二では、若年者・非正規労働者、及び女性への職業能力開発の支援を前にした。三では、イベント等を通じた情報発信を行う。四は、指導技術の継承に向けた指導環境の整備等。




<予算>

 先に都議会で全会一致となった本年度の予算の照合を視る。先ず『第十次計画』に正規に照合できる予算項目は無い。担当の産業労働局で四千七百億円(一般歳出総額)、前年度より三十一億円を減らした。同局の予算要求では、五千億円(一般歳出)であったので、小池都政により三百億円も減らした事になる。


事項別歳出では「Ⅳ 雇用就業対策」に『第十次計画』に係る施策が散りばめられている。本年度は二百八十億円となり、予算要求時の三百億円から二十億円減った。



労働生産性の項目分析

 労働生産性は、付加価値額/従業員数で求める事ができる。付加価値額は、営業利益+人件費+減価償却費で求める(『中小企業新事業活動促進法』の定義)。労働生産性は、より少ない人数で大きな価値額をだせるか。現実的には中小・零細において人数(従業員数)が略一定なので、営業利益か人件費か減価償却費を上げる事だ。人件費を中小・零細が上げる事は難しい。となると、SFA等のIT技術を使った営業利益の上昇かIT資産の購入となる。IT資産の購入は、中小・零細には限界がある。よって、IT技術を使った営業利益の上昇を狙う。


前出の技能系正社員に求める能力のトップ3は、「問題改善能力」「多能工化」「IT」。労働生産性を向上させるものは、時間の投資対効果で考えると「IT」が最も高い効果を発揮する。「問題改善能力」「多能工化」は両方とも専門性が高く、習得迄に長い時間を要す。




最大効果は訓練生のIT集中講義

 さすれば、都は「IT」を軸とした職業能力開発を行うべきであろう。都知事をはじめ、都庁のエリート達が「IT」技術・サービス・製品を把握し、導入効果と成果が出る期間を分かり、各業種や各企業に適した導入方法を先の支援機関が教えなければならない。


担当する産業労働局の人員は、「ITパスポート試験」級の知識は最低限だ。スキルレベル最高(4)の「ITストラテジスト試験」等の高度情報処理技術者級の知識は、施策の考案や予算策定に欠かせないだろう。当然に局長はスキルレベル4が求められる。知識なく提案や良否裁断は不可能である。


詰まる所、都の労働生産性を上げる為には、企業への人材育成を行う前に都庁(行政)の職員の職業能力開発を優先すべき、となる。実現した場合には、都GDPの目標百二十兆円を前倒しで達成できると計算できる。現状の予算と施策では有意であるが、都下の労働生産性の向上は微々たるものとなる。


さて、小池都政は職員のバージョンアップ化を図れるだろうか。


画像引用:

第10次東京都職業能力開発計画(概要)/東京都

第10次東京都職業能力開発計画(全文)/東京都

試験区分一覧/情報処理推進機構

記事:羽田野正法×撮影:金剛正臣

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