ロシアの新『外交政策概念』、在外国民の保護に軍隊派遣

【軍事報道】 ウラジーミル・プーチン(壬辰)露統領は、令和五年三月三十一日に統領令『ロシア連邦の外交政策概念(全七十五条)へ署名した。同日にクレムリンにて首相や連邦院議長等とビデオ会議を開いた。


プーチン露統領は、「国際的な現実における根本的な変化により、主要な戦略計画文書を真剣に改訂する必要が生じました。」と、平成二十八年の外交政策を改訂した理由を述べた。


セルゲイ・ラブロフ外務大臣は、「非・友好的な国家の行動によって生み出された、我が国の安全と発展に対する脅威の実存性が認識されています。私達は、外交政策概念の中で、よりバランスの取れた“公正な世界秩序の原則”についてビジョンを示しました。」と述べ、反ロシア勢力として米国を名指しした。




<軍隊の使用>

 新概念では、ロシアへの非・友好的な行動に対し、対称的及び非対称的な措置の可能性を想定している。


ポイントは、ロシアと同盟国への武力攻撃を撃退・防止する為の軍隊使用について。「自衛の為の武力行使(軍隊使用)の条件」につき、『連合国憲章』第五十一条(以下)に適合する様に改訂した。


この憲章の如何なる規定も、連合国加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、『安保理』が国際の平和及び安全の維持に必要な措置を執るまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。

この自衛権の行使に当って加盟国が執った措置は、直ちに『安保理』へ報告しなければならない。

また、この措置は『安保理』が国際の平和及び安全の維持又は回復の為に必要と認める行動を何時でも執るこの憲章に基く権能及び責任に対しては、如何なる影響も及ぼすものではない



新・植民地主義

 新概念には以下を記した。

  • (四十五条)二;ロシアの市民及び組織に対して非・友好的な行為を行い外国に住む同胞の基本的権利及び自由を侵害する事に関与している外国の国家及びその団体外国の役人組織及び個人に対して、執行措置及び特別な経済措置を講じる事。


また、米英による現在の世界戦略を「新・植民地主義」と表現。日本も新自由主義にて、日本の財産を奪われている。よって若者・若手の所得が上がらない。


そして新概念では、中国・インド・イスラム諸国・ASEAN諸国との戦略的パートナシップに言及。アフリカ、ラテンアメリカとカリブ海も含み、全世界的である。


外交政策分野における戦略的目標

  1. ロシアの安全、全分野における主権・領土保全の確保
  2. ロシアの発展の為に好ましい外部条件の構築
  3. 現代世界の責任ある、影響力ある、自律的な中心地の一つとしてのロシアの地位強化


以下が優先順位。

  1. あらゆる国家が「新・植民地主義」や「覇権主義」の野望を捨て去る為の条件を整える
  2. 国際的な紛争や葛藤を解決する為、外交・調停等を用いる
  3. 主権国家への「内政干渉」「違憲な政権交代」「領土保全の侵害」に対抗する
  4. 世界大戦の前提条件(核兵器等の大量破壊兵器の使用のリスク)の排除と国際安保の新たな構造の形成
  5. 戦略的抑止や軍拡競争の防止等




現代の世界

(八条)露鳥戦争を踏まえて「一般的に好ましい変化」と表現。この変化は、世界支配と新・植民地主義の論理に慣れている多くの国家は歓迎していない事を認める。新・植民地支配では、政経・軍事の分野で競争相手を排除し、反対意見を抑圧しようとする試みが為されている、と主張。


(九条)少数の国家Gが、少数の国家Gのルールに基づく世界秩序の概念に置き換えようとしている。それは、全利害関係国の公平な参加無しで作られたルール・基準・規範。


(十三条)ウクライナに関しては、ロシアの創造的な「文明的役割・権力・経済的・技術的能力」を弱め、外交・内政における主権を制限し、領土の完全性を破壊する等のあらゆる方法でロシアを弱める事を目的としている。西側諸国を敵とは考えていない。ロシア連邦は、対話と協力の用意がある。


(十四条)西側諸国の非友好的な行動に対し、ロシアは、あらゆる手段を用いて自国の生存権と自由な発展権を守る積り。




外交政策領域におけるロシア連邦の国益・外交政策の戦略目標・主要目標

(十七条)一;公平で持続可能な世界秩序を形成する。

二;国際の平和と安全、戦略的安定を維持し、国家と人々の平和的共存と漸進的発展を確保する

五;外国及びその関連団体による反ロシア活動に対抗し、その様な活動を阻​​止する条件を作り出す事。

六;隣接国と良好な隣人関係を築き、その領土内の緊張と紛争の防止と解消に貢献する事。

九;世界経済におけるロシアの地位を強化し、ロシア連邦の国家開発目標を達成し、経済的安全を確保し、その経済的可能性を実現する。

十;世界の海洋・宇宙・空域におけるロシアの利益を確保する事。

十一;ロシアが海外で客観的に認識される様にする為、国際情報空間におけるロシアの地位を強化する。




ロシア連邦の外交政策の優先事項

(第十八条)四;内政不干渉

五;国際関係の規制における国際法の規則。全国家が二重基準の政策を放棄する。

七;文化・文明・社会組織の多様性、発展モデル、イデオロギ、及び価値観を全国家が他国へ押し付ける事を拒否し、世界の全伝統的宗教と世俗に共通する精神的・道徳的価値観へ依拠する。


(二十条)国際関係における「法の支配」は、公正で持続可能な世界秩序、世界の安定、国家とその連合体の平和で実りある協力の基盤の一つであり、国際的緊張を緩和し、世界の発展における予測可能性を高める要因。


(二十三条)四;「連合国憲章」に違反する不法な一方的強制措置を取る慣行を、国際関係から、排除する。


(二十五条)ロシア連邦は、国際法の普遍的に認められた原則・規範、ロシア連邦の国際条約、及びロシア連邦の法律に従って、その軍隊を使用できると仮定。ロシアは、「連合国憲章」第五十一条を、自衛の武力行使の為の、適切且つ変更不可な法的根拠と見做す。

特に、ロシア連邦の軍隊の使用は、ロシア及びその同盟国に対する武力攻撃を撃退し、防止する為の任務の解決、危機の解決、連合国「安保理」の決定に従う平和の維持(回復)、その責任領域におけるロシアの参加する他の集団安保機構、外国に居る自国民の保護、及び国際テロと海賊との闘いに向けられる事がある。


(二十六条)ロシア連邦の主権・領土保全を脅かす外国、又はその団体による非・友好的行為があった場合、ロシア連邦は非・友好的行為を抑制し、又その再発を防ぐ為に必要な対称・非対称の措置を執る事を合法であると見做す。


(二十七条)一;戦略的抑止。軍事紛争(核兵器等の大量破壊兵器の使用を含む)を引き起こしかねないレベルまでの、国家間関係の悪化を防止する。


(三十条) 国際的な情報セキュリティを確保し、それに対する脅威に対抗し、グローバルな情報空間におけるロシアの主権を強化する。

四;世界の情報空間を軍事化し、ICTを国家の内政に干渉し、軍事目的に利用し、他国の高度なICTへのアクセスを制限し、その技術的依存を高める非・友好国の政策に対抗する為、政治・外交・その他の措置を執る。


(三十五条)「不法移民」と闘い、国際的な移民プロセスの規制を改善する為、ロシア連邦は建設的な政策を追求する国家連合体「独立国家共同体CIS)」の加盟国と当該分野で協力強化を優先させる積り。


(三十七条)一;宇宙空間における軍拡競争を防止する為、主に国際条約の策定と締結、及び暫定措置として、全国家が宇宙空間に武器を最初に配備しない事を約束する事により、国際協力を促進する。


(三十九条)二;ロシア経済が外国の非・友好的な行動に依存する事を低減。主に非・政治化され、安全で非・友好的な国から独立した「国際決済インフラ」を開発し、同盟国やパートナとの決済における自国の通貨の使用を拡大する。

七;先ず、連邦国家・ユーラシア経済連合(EAEU)・CIS・上海協力機構(SCO)・BRICSから、次いで「大ユーラシア・パートナシップ」の形成を視野に入れ、ロシアの利益に繋がる地域、及び地域間経済統合のプロセスを促進する。

八;ユーラシアの輸送とインフラの接続性を強化する。


(四十三条)二;ロシア語の普及を支援し、連合国やその他多くの国際機関の公用語の一つである「国際コミュニケーション言語」としての地位を強化する。外国(主にCIS加盟国)におけるロシア語の学習と使用を促進する。国際機関を含む民族間及び国家間のコミュニケーションにおけるロシア語の役割を維持・強化する。ロシア語を外国における差別から保護する。


(四十四条)一;ナチス・ドイツの敗北と連合国の設立におけるソ連の決定的な貢献、脱・植民地化とアフリカ・アジア・ラテンアメリカの人々の国家樹立への幅広い援助等、世界史と公正な世界秩序の形成におけるロシアの役割と地位に関する真実の情報を、海外に広める。

三;外国にあるロシアの歴史的・記念的に意義のある場所に対し、不法行為に関与した外国とその団体・外国の役人・組織・個人へ対応措置を講じる。


(四十五条)ロシア連邦は、ロシア国民(未成年者を含む)の権利・自由・正当な利益を保護し、外国の違法な侵害から保護し、非・友好的な国家によって放たれた「ロシア恐怖症」のキャンペーンに対抗する。


(四十八条)三;グローバルな情報空間における(国内のデジタル情報プラットフォームを含む)ロシアの報道機関の地位の強化、及び海外に住む同胞のロシアに対する建設的なメディアを支援する。

七;ロシア連邦とCIS加盟国の共通の情報空間を更に形成し、ロシアに対して建設的な政策を追求する国家による情報分野での協力を強化する




外交政策における地域分野

(四十九条)一;武力紛争の防止と解決、国家間関係の改善、近海の安定の確保(「色の革命」の扇動やロシアの同盟国・パートナーの内政干渉の試みを防止することを含む)。

 ※色の革命は、露鳥戦争の発端となる旧・共産圏諸国でユダヤ財閥が仕掛けた政権交代

五;長期的には、ユーラシアに統合された経済的・政治的空間を確立する。

六;外国とその同盟国の非・友好的な行動を防止し、これに対抗する。これは、近海の崩壊プロセスを誘発し、ロシア・同盟国・パートナの主権行使に障害を齎す行動。



北極

(五十条)二;地域を軍事化し、ロシア連邦の北極圏における主権行使を制限しようとする非・友好国の政策を無力化する。



ユーラシア大陸

(五十二条)ロシアは、中国との包括的パートナシップと戦略的相互作用の関係を、更に強化する事を目指し、ユーラシア大陸と世界の他の地域で、世界と地域レベルの安全安定・持続可能な開発を確保する為、あらゆる分野における互恵的協力・相互支援・国際舞台での連携強化の発展を優先させる。


(五十三条)ロシアは、特にインドと特権的な戦略的パートナシップを構築し、相互利益の為にあらゆる分野でレベルを引上げ、交流を拡大し、二国間の貿易・投資・技術関係の拡大に特別な注意を払い、非・友好国とその同盟の破壊的行動に対する抵抗力を確保する事を継続する。


(五十四条)三;ユーラシアの開発区や経済回廊の創設等によるユーラシアの経済・交通相互接続の強化。「第二シベリア鉄道(バイカル・アムール鉄道、シベリア南部~樺太の対岸)」、「シベリア鉄道(モスクワ~ウラジオストク)」の整備と容量拡大、「南北国際輸送回廊(印ムンバイ~露モスクワ)」の早期立上げ、「欧州ー西中国国際輸送回廊」、カスピ海・黒海地域、北洋航路のインフラ整備、「ロシアーモンゴル経済回廊」を含む。


(五十五条)一;地域諸国・ASEAN加盟国との経済・安保・人道・その他の協力を強化する。


(五十六条)一;イランとの包括的で信頼できる交流、シリアの全面的な支援、トルコ、サウジアラビア、エジプト、その他の「イスラム協力機構」加盟国との多面的で相互に有益なパートナシップを、その主権とロシア連邦に対する政策の建設性を考慮しながら深める。

二;中東・北アフリカにおいて、「アラブ連盟」や「湾岸協力会議」等、この地域の全ての国家と国家間連合の潜在力を結集する事に基づく、持続可能で包括的な地域安保・協力体制を確立する。



アフリカ

(五十七条)一;当該アフリカ諸国の主権と独立に対する支援(安保・軍事・軍事技術協力の分野での支援を含む)。



ラテンアメリカとカリブ海

(五十八条)一;主権と独立を確保する為、米国とその同盟国からの圧力下で、関心のあるラテンアメリカ諸国を支援する(安保・軍事・軍事技術協力の確立と拡大を含む)。

二;ブラジル・キューバ・ニカラグア・ベネズエラとの友好、相互理解、多面的な互恵パートナシップの深化、その他のラテンアメリカ諸国との関係構築、その独立性の程度とロシア連邦に対する政策の建設性を考慮した上で、その関係を強化する。



欧州地域

(五十九条)欧州の殆どの国家は、ロシア連邦の安全と主権に対する脅威を作り出し、一方的な経済的利益を得、国内の政治的安定を損ない、ロシアの伝統的な精神的・道徳的価値を侵食し、同盟国やパートナとの協力に障害を与える事を目的としたロシアに対する攻撃的政策を執っている。

一;非・友好的な欧州諸国、「北大西洋条約機構(NATO)」、「欧州連合(EU)」、「欧州評議会」から、ロシア・同盟国・パートナの安保、領土保全、主権、伝統的な精神的・道徳的価値、社会経済的発展に対する脅威を軽減し、無力化する。

二;欧州諸国とその同盟が非・友好的な行動に終止符を打ち、これらの諸国とその同盟が反ロシア路線(ロシアへの内政干渉を含む)を完全に放棄し、ロシアとの善隣・互恵協力の長期政策に転換する為の条件を整備する。


(六十条)ロシアと欧州諸国の関係正常化を複雑にしている主な要因は、米国とその個々の同盟国が、ロシアと欧州経済の競争力を弱め、損ない、欧州諸国の主権を制限し、米国の世界支配を確保する為に、欧州地域に分断線を引き、深くする戦略政策にある。



米国・その他のアングロサクソン諸国

(六十三条)ロシア連邦は、核保有大国としての地位、戦略的安定と国際安保全般に対する特別な責任を考慮し、米国との戦略的平価の維持、平和共存、ロシアと米国の利益バランスの確立に関心を抱く。

この様な米露関係のモデルを形成する見込みは、米国が力による支配政策を放棄し反ロシア路線を修正し、主権平等、相互利益、互いの利益の尊重という原則に基づいて、ロシアと交流する事にどの程度応じる用意があるかによって決まる。


(六十四条)ロシア連邦は、他のアングロサクソン諸国がロシアに対する非・友好的な路線を放棄し、その正当な利益を尊重する意思の程度に応じて、関係を構築する積り。



南極

(六十五条)ロシアは、南極を平和・安定・対等な協力の非武装空間として維持し、生態系の安定を維持し、この地域におけるプレゼンスを拡大する事に関心を抱く。




外交政策の形成と実施

(七十条)ロシア連邦「安保理事会」は、国家の外交政策の主要な柱を策定し、国家の安保に対する脅威を予測・特定・分析・評価し、それらを無力化する為の手段を考案し、国家の安保を確保する為の特別経済措置の適用を露統領へ提案し、安全の分野における国際協力に関する問題を検討し、連邦行政当局及び組織活動を調整し、ロシア連邦の主権、その独立と国家の一体性を保護する目的で、国家安保に対する外部からの脅威を防ぐ。


(七十五条)外交政策決定の準備と実施において、連邦行政機関は、ロシア連邦議会の各会派、ロシアの政党、ロシア連邦公会堂、非営利団体、文化・人道団体、ロシア正教会及びその他の伝統的宗教団体、専門家や科学界の代表、ビジネス界、報道機関と協力し、彼らの国際社会への参加を促進する。

建設的な考えを有す市民社会が外交政策プロセスに広く関与する事は、ロシア連邦の外交政策に対する国民的なコンセンサスに繋がり、その実施に貢献し、国際的な課題である様々な問題をより効果的に解決する為に重要である。


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