司法府の長・大谷直人 最高裁長官は例年にない強い意志を発す

【政治報道】 令和三年元日に三権の一角、司法府の長である最高裁・大谷直人(壬辰)長官は『新年のことば』を発した。


「昨年は、世界中で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、国を挙げて感染拡大防止と社会経済活動の両立に取組んだ一年になりました。全国を対象とする緊急事態宣言が約一ヶ月間継続するという未曾有の事態の下、裁判所も多くの庁で業務を大幅に縮小する態勢を取る等、前例の無い対応を余儀なくされました。


現在においても密閉・密集・密接のいわゆる「三密」をできる限り避ける等の感染拡大の防止策を確実に講じつつ、これと調和の取れた庁全体としての適切な事件管理を如何に実現していくかという難しい局面を脱したとは言えない状況が続いています。


この様な事件処理の在り方に関わる課題に各庁全体として取組んでいくに際しては、裁判部においてという単位で、或いは部を超えて裁判官が中心となって意見交換し、事務局と密接に連携した上で大きな方針について認識を共有していく作業が重要である事は、これまで繰り返し指摘してきた所です。


一連の対応の貴重な経験を活かして、今後に万全を期すと共に、生活様式の変化や利用者のニーズに即した新たな裁判運営の在り方の検討にも繋げていく事が必要です。



 情報通信技術の急速な発展と普及を背景として始められた民事訴訟手続のIT化の検討は、急ピッチで進められています。昨年二月からは、先行実施庁においてウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の新たな運用を開始し、十二月には全国の地方裁判所本庁に、その運用を拡大した所です。


感染症対策の一つとして人の接触機会の低減が求められる様になった事を契機に、裁判手続のIT化の有効性は広く実感され、本格的な実現への期待も益々高まっていくものと考えられます。もっとも、利用者の視点に立って現在の民事訴訟の有り様を点検する時、判断自体の適正さを確保する事は当然の事として、手続保障並びに裁判理由の当事者及び社会に対する説得力の更なる向上と共に、合理的な期間内での解決に向けた一層の改善が求められている事は言うまでもありません。


この様な課題については、IT化の検討と一体のものとして、引続き真摯に取組んでいく必要があり、裁判官は職員と共に、部の内外での意見交換や議論を活発に行う事で、自らの審理運営方法を振り返りつつ、裁判所全体で目指すべき争点中心型の審理の在り方についての共通認識を醸成していく事が求められます


この様な意味で、民事訴訟手続におけるIT化の取組みは、時代に相応しい新たなプラクティスの確立に向けた検討と位置付けて、今後益々加速させていかなければなりません。全ての職員が職種の枠を超え、従来の議論に囚われない新鮮な視点で積極的に検討に取組んで欲しいと思います。



 「裁判員制度」は施行後十一年を経過し、多くの国民に支えられ、我が国における刑事裁判の中核に位置付けられるものとして定着してきています。今後も国民の理解と協力を得ながら制度を安定的に運営していく為には、裁判員の方々が安全に、且つ、安心して参加できる環境を確保する事が重要であり、感染症の拡大防止策を徹底する事も、その実践の一つと言えます。引き続き、感染状況を含め、地域の実情に留意しながら、これに応じたきめ細かな配慮や工夫を施していく事が必要です。


同時に、裁判員との実質的な協働を更に追求する等、裁判運営や判断の在り方全般について裁判所全体で協力して検討を深める事が不可欠ですし、この様な検討が刑事裁判全体の在り方を変えるものであるとの認識の下に、改善に向けた取組みを弛(タユ)まずに続けて欲しいと思います。



 「家庭裁判所」についても、社会の様々な変化や利用者のニーズに的確に対応する為、その機能の強化に向けた取組みが重要である事は、夙(ツト)に指摘してきた所です。家事調停手続については、今般の感染症への対応を契機として、従来の運用に囚われる事なく、改めて調停の本質に立ち返った上で、適正且つ効率的な調停運営の在り方に関する検討と実践が各庁で進められています。家庭裁判所に配置された多様な職種が持つ、それぞれの強みを活かし、効果的に連携しながら、法的紛争を解決する機能を充分に発揮できる様、取組みの深化が期待されています。


成年後見制度」については、「成年後見制度 利用促進 基本計画」の対象期間が残す所、一年余りとなりました。引き続き、地域全体で本人を支える為の体制整備を推進させるべく、それぞれの地域の実情や課題を認識した上で、家庭裁判所が一体となって積極的に関係機関との連携を深めていく事が重要ですし、制度利用者や関係者等からの様々な意見を踏まえながら、適切な後見人の選任、交代や報酬の在り方の検討等を含め、その運用の改善に向けて真摯に取組みを進めていく必要があります。


少年審判手続」については、昨年、罪を犯した十八歳及び十九歳の者に対する処分等に関して法制審議会の答申があり、今後、立法の過程で更に議論がされる事が見込まれますが、裁判所としても、その動向等を注視していく必要があります。



 変化を続ける社会に対応しつつ、多様化する国民のニーズに合致した質の高い司法サービスを将来に亘って提供していく為には、組織としての活力の維持・向上を図っていかなければなりません。職員が、適正迅速な裁判の実現を支えていこうという意欲とその職責に相応しい責任感を持って執務に当たり、持てる能力を充分発揮し、各官職に課せられた役割を果たしていける様、育成面での取組みや事務の合理化を含めた職場環境の整備を進めていく必要がありますし、若年労働人口の減少が進んでいく中で、優秀な人材の確保に向けた採用面での取組みにも一段と力を注いでいく事が重要です。 



 今般の感染症の流行により、先行きへの不透明感が強まり、人々の社会生活上の不安も高まっていく事も懸念され、新たな類型の紛争が生起する可能性も考えられます。この様な時代にこそ、裁判所は、国民から寄せられる信頼と期待に応え、法の支配の理念を裁判を通じて具体的に示す事により、社会の基盤の安定を確保していく事に努めていかねばなりません。

果たすべき使命の重さを裁判所職員一人ひとりと共有しながら、その力を結集させて真摯に職務に取組む決意を新たにして、新年の挨拶と致します。」


撮影:岡本早百合、文字修飾:FPhime

0コメント

  • 1000 / 1000