【社会報道】 最高裁判所・大谷直人(壬辰)長官は、令和三年五月三日に談話『憲法記念日を迎えるに当たって』を公表した。
日本国憲法の施行から七十四周年の記念日を迎えました。本年に入っても新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は収まらず、国民生活に甚大な影響を与えています。社会経済活動を継続しつつ感染拡大を防止する為懸命の努力が続けられていますが、裁判所としても、この様な状況にあって、感染拡大防止の要請と紛争解決を使命とする司法の役割とを如何に調和させていくかを最重要課題として一体となって取組んできました。
感染拡大防止の為の社会経済活動の制限によって、国民生活は多くの影響を受けており、その様な中で生じている葛藤が今後、法的紛争として現れてくる可能性もあると思われます。取り分け、家庭事件については、家族の在り様の多様化や社会状況の変化に伴い、解決に困難を伴う事件が増えている事はこれまでも指摘されている所ですが、今般の事態が家庭を巡る状況に与える影響についても十分留意する必要があります。
その上で、新たに生じる争点等にも適切に応える事ができる様、必要な体制整備を行っていきたいと考えています。
今般の感染症の経験もあって、情報通信技術の有用性についての理解が広がり、社会におけるITの利活用は一段と加速しています。こうした動きは司法の分野においても例外ではありません。IT化の検討が先行している「民事訴訟手続」では、昨年十二月にウェブ会議等を活用した争点整理の運用が全ての地方裁判所本庁に拡大した所ですが、利用件数は着実に増加し、徐々に定着していると感じます。
「民事訴訟法」等の改正に向けた検討も進んでいる所、これまでの審理運営に改善すべき点がないかを見つめ直しつつ、利用者のニーズに応える為にはどの様にITを生かす事ができるのかという視点に立って議論を深めていきたいと考えています。
また刑事の分野でも、本年三月から捜査・公判のIT化方策の検討が開始されており、裁判手続のIT化については分野を問わず、裁判所全体として検討を進めていく必要があります。
裁判所は今日に至るまで、日本国憲法によって託された司法権を適切に行使し、社会に生起する紛争の解決を通じて、経済の発展や社会の安定に寄与する様、努めてきました。本年は「司法制度 改革審議会」の最終意見が公表されてから二十年の節目に当たりますが、制度の改革等を通じて培ってきた議論の蓄積を十分に生かし、我が国の司法がその役割を適切に果たしているかという広い視野の下に、これからも議論を重ねていく事が必要です。
憲法記念日を迎えるに当たり、日本国憲法の下で法の支配を揺るぎないものにするという裁判所の使命の重さに改めて思いを致し、裁判所に寄せられる国民の期待に応える為に全力を尽くさなければならないと考えています。
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