大学をビジネス化し企業から大学への投資額を三倍に、「産学官連携;共同研究強化ガイドライン」策定

【ビジネス・政治ニュース】 平成二十八年十一月三十日に経産省(大臣:世耕弘成)と文科省(大臣:松野博一)は、産学官(IAG)のイノベーションを促進する為、「組織」対「組織」のIAG連携の深化方策や方策の実行・実現に必要な具体的な行動等について取り纏めた「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を策定した。百四十五頁ある本ガイドラインは、マニュアル的で大学関係者だけでなく、IAG連携を担当するビジネスマンも必読だ。


本ガイドラインの実効性確保として、三十七年度迄に企業からの大学・国立研究開発法人に対する投資額を三倍に引き上げる(「日本再興戦略二〇一六」より)。これはOECD平均を超える。安倍政権は、第四革命が待つ企業と大学等のドッキングを図る。中小企業と地方大学も対象だ。従来のリニア モデルR&Dからの脱却を目指す本ガイドラインの具体的な方針は、以下の四方向。


  1. 具体的な共同研究等のプロジェクト支援
  2. 大学・国立研究開発法人におけるイノベーション経営人材の育成や運用改善への支援
  3. ガイドラインに基づく大学 ・国立研究開発法人の取組成果に対するインセンティブ付与
  4. ガイドラインを踏まえた大学の取組の評価



成功要因(CSF)は、七類とした。

  1. パートナシップ設計
  2. 管理体制
  3. 予算
  4. 知財管理
  5. 法令遵守等
  6. 人的資源
  7. その他




<金・知・人で短期・中長期>

 大学等側にはIA連携本部に、副学長の設置やDB構築、技術&事業ニーズのマッチング強化、担当する「マネジメント チーム」の整備、中央集権化、リエゾン機能を有する組織配置を求めている。特に大学等側のスピード感を警戒している。以下は、短期的視点である。


=金=

 費用に関しては、各種算定方式が示されている。「戦略的IA連携経費」も提示した。これはIAG連携の機能強化の為、企画・提案関連経費や知財マネジメント関連経費、インフラ整備経費、広報関連経費等の費用の事だ。中長期的な成果の享受面で考えると、重要な勘定項目であろう。

端的に安倍政権は、大学等に中企業以上のマネジメント力(統治体制)を求めていると見做せる。延いては、上場企業級のマネジメント力をもった大学等を創り出す積りだろう。



=知=

 知財戦略の策定項目は、「経営としての知財の位置付け」「研究領域に応じた知財マネジメント予算の策定」「活用を意識した知財マネジメント体制の構築」「知財の取得を重点的に行う技術分野の設定」の四つ。知財のマネジメントや考え方について、詳細に本ガイドラインに記されている。

IAG連携の大学等側のリスクマネジメントは、活動萎縮を防ぐ為に以下の五方向を求め、其々の具体策を記した。其々のマネジメントの切り口は利益相反、技術流出防止、契約、職務発明。


  1. 実効的・効率的なマネジメント体制・システムの構築
  2. 学長・理事長等のリーダーシップの下でのマネジメント強化
  3. 研究者等への普及啓発
  4. リスクマネジメント人材の確保・育成
  5. 事例把握、情報共有(マネジメントのノウハウ等の整備)



=人=

 有能人材の獲得の為に「クロス(X)アポイントメント」制度の促進を説明し、共同研究と兼業との違いを記した。「Xアポ」制度は、研究者が大学や企業等の二つ以上の組織で雇用契約を締結する事だ。本ガイドラインでは、大学等側から見た「Xアポ」の規定について指し示し、「在籍型出向」形態を推している。またインセンティブの付与も推奨。「Xアポ」の想定事例も示した。



以下は、中長期的視点である。

=金=

 大学等側には、財務基盤の強化と戦略的な資源配分を期待。「戦略的IA連携経費」の位置付けと有用性、財源の多様化を記した。



=知=

 「知的資産(ナレッヂ アセット、NA)」のマネジメントの重要性を唱え、取組みを求めた。NAマネジメントの前提として、「幅広いスキルを有する経営者による人材の育成・確保」「企業の知財マネジメントがオープン&クローズ戦略下での、戦略対応させたNAマネジメント運用」「『研究価値』のPR強化」を挙げ、具体策を例示。研究結果の社会実装の大切さも説いた。また大学にベンチャ企業の創出・育成のハブとしての役割を求めた。更にマネジメント分野での外部登用、研究者等への国際的起業サポートの体制整備も挙げた。



=人=

 IAG連携用の人事評価制度の設計、IAG連携系教員の価値の見直しを求めた。人事評価に対しては留意点を挙げた。また研究資金や資源(スペースや時間等)の配分等の内発的インセンティブによる評価結果の活用も挙げた。「Xアポ」の活用やプロジェクトチームの評価検討も期待する。



産業に求めるもの、政府が行うもの

 ここまでは大学等側であったが、ここからは産業側へ期待する取組みとなる。積極的な提案とコミュニケーションや経費の把握、学生の人件費算入化、共有特許権のオープン性、「Xアポ」の活用、長期的視点からの拠点化等の取組みを求めた。


政府側の目標は、IAG連携の「本格的な共同研究」を世界最高水準のイノベーション迄に引き上げる事。実効性の確保として共同研究等のプロジェクト支援、大学等側のイノベーション経営人材育成・運用改善への支援、取組み成果へのインセンティブ付与と大学評価を挙げた。


今後、更に検討すべき政府側の二事項は「研究成果の適切な保護・活用に向けた知的財産予算の確保」と「Xアポ制度の促進」だ。更に投資対研究成果のマネジメント(費用や期間等)、PDCAサイクルの運用を重要とした。流れとしては基礎段階でAG主導、開発までは共同研究、実装まででI主導と据え置く。


そして本ガイドラインの後半には事例集を掲載。大学側等には東京工大、名大、東大、早大、近大、東京理大、スタンフォード大、MIT、カリフォルニア大、芝浦工大、阪大、立命館大学、東北大、理科学研究所、東京医科歯科大学、三重大、静岡大、岩手県立大、釧路公立大、信州大、筑波大、岡山大、山梨大、産業技術総合研究所、医療系産学連携ネットワーク協議会。

産業側にはNEC、多摩川精機、日本経済団体連合会の事例が掲載されている。


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