【政治論説】 第一九三常会の最大の関心である、『組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案(閣法;六十四号)』。これは「共謀罪」の構成要件を改めて、「テロ等準備罪」を新設するもので、報道現在は衆院で審議中である。国内の識者からは同法案への違憲性が指摘されている。
憲法のどこに違反するのか。第十九条「思想・良心の自由」、第二十一条「表現の自由」と第三十一条「罪刑法定主義(第三十九条を除く)」等である。同法案の国会における行政府からの立法府への説明では合意を処罰対象とし、捜査機関の判断により自己表現が取締り対象となり、処罰される準備行為自体が明文化していない。
それは金田勝年(己丑)法務大臣の答弁でも明らかで、盛山正仁(癸巳)副大臣との答弁の食い違いも発生している。詰まり同法案は、憲政史上において最高レベルの国民を縛る法律にも関わらず、具体的な法律の運用(取締り)を時の行政府が都度、判断するものと云える。
<撤廃・廃止の方法>
同法案が成立し、もし違憲性が見込まれる場合には、司法府(最高裁)が違憲立法審査権を発動できる。但し、刑事訴訟等の個別事件の第三審(上告審)に限る。例えば「尊属殺法定刑違憲事件(最判;昭四十八年四月四日)」等で違憲立法審査権が発動され、対象の法律について違憲とし無効とした。
最高裁判例は法治国家の日本にとって、最高の権限を長きに有す。事実上、立法・行政よりも上だ。違憲とされた法律は無効となり、死文化され、刑法第二百条の様に撤廃ないし廃止される。この様に違憲立法審査権の発動による法律の撤廃・廃止は、年数を要する。
他には、政権交代によって既に成立した法律の撤廃・廃止が可能である。現在では野党が同法案に反対しているので、同法案が成立した場合に国民が撤廃・廃止を望むならば、投票先を変える事で実現できる。但し、政権政党が公約を守った時だ。然し、違憲立法審査権の発動より手続き的に短い。これが立法府の行政府に対する権限である。
最高学部・法学部の四年間は重い
問題は金田法務大臣が、経済学部出身で前職が大蔵省(当時)の公務員であった点だ。同法案の主軸は六法の内、刑法である。金田法務大臣が罪刑法定主義を学んだ、と言い難い。よって、しどろもどろな答弁となる。極、自然な事だ。例え法学部でも様々な学科があり、安倍晋三(甲午)総理大臣の様に政治学であったり、憲法学や商法系(会社法等)を専門的に学生は修得する。事実、安倍総理も罪刑法定主義を理解してない答弁を行っていた。
森山副大臣は、前職が国交省の公務員であったが、法学及び商学の博士。故に国会の答弁で確からしいのは総理や大臣よりも森山副大臣となる。博士号を傷つける発言は自身が許さないもの。さすれば、森山副大臣が四月二十一日に行った答弁、一般の市民・団体への捜査につき、可能性は排除されないとの認識、は同法案の真意である。野党は森山副大臣の言質を得るべきだろう。
国務大臣が必ず専門家でないといけない訳ではない。然し法治国家である以上、少なくとも法務大臣には法学部出身者を、主権者・国民が求められたい。その道の素人で刑法を作れる程、法務大臣の地位は軽くない。
W法学士に対抗するには
そして直に監視する政治部の記者には法学部出身者で且つ、対象の法案について専門の学科で修得した者を報道各社は宛がわれたい。特に行政府の長である日本国総理や東京都知事に対しては、礼儀の面からみても至極、当然であろう。さもなくば長の真意は見抜けないだろう。
これは野党も同じである。法学士の自民・安倍総裁に対して民進・蓮舫(丁未)代表は法学士、共産・志位和夫(甲午)委員長は工学士、維新・松井一郎(甲辰)代表も工学士、自由・小沢一郎(壬午)代表は経済学士だが大学院の法学研究科に在籍、社民・吉田忠智(丙申)は農学士。尚、公明・山口那津男(壬辰)は法学士。法の勝手が分からずに、W法学士と戦えるだろうか。
国民の内、シニアは政治家の経歴や実務能力を軽視し、ポピュリズム(知名度)を重視してきた。その結果が、今である。中堅・若手の国民は、政治家の経歴や実務能力を重視する事で、自身等の幸福を追求する事ができる。
(了)
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