岸田総理の「スタートアップ徹底支援策」に可能性

【ビジネス報道】 令和三年十一月八日に総理官邸にて岸田総理(丁酉)は、第二回『新しい資本主義実現会議』を開催(既報)。その中で「我が国企業のダイナミズムの復活、イノベの担い手であるスタートアップの徹底支援」がある。若者・若手が核となる部分だ。詳報する。



一)要素技術の製品化・サービス化の促進

 我が国では、要素技術の研究開発に成功しても製品・サービス化が上手くいかず、他国企業がビジネスとして収益化した事例が散見される。日本企業が要素技術の製品化・サービス化を進める為には、新しい技術の可能性を見出す経営の「目利き力」や事業化に繋げる「事業立上げ力」の強化、こ うした力を持つ人材の育成、経営戦略と知財戦略の一体的な推進等と民の経営力の強化を進める必要がある。



二)付加価値の高い新製品・新サービスの創出の促進

 OECDによると、新製品や新サービスを投入した企業の割合は、日本の場合は製造業で九.九㌫、サービス業で四.九㌫に留まり、独(十八.八㌫、九.〇㌫)や米(十二.七㌫、七.六㌫)よりも低い水準。


また、我が国の「労働生産性(GDP/人)」は令和元年に七.五万㌦であり、G7諸国の中で最低。製造コストの何倍の価格で販売できているか、を示す「マークアップ率」を見ると日本は一.三倍に留まり、米の一.八倍や英の一.七倍より低い水準。


この様に日本企業は新製品や新サービスを生み出せず、十分な売値を確保してない。売値を上げるのは、現場の工員や従業員の問題ではなく、経営の問題である。日本企業が付加価値の高い製品やサービスを生み出し、高い売値を確保できる付加価値を創造する様にする事で、新しい資本主義の考え方に沿って従業員や取引先に付加価値を分配する構造へと日本の産業を変革していく必要がある。


この為に日本企業は、従来の「モノ売り」から脱却し、高収益を狙える「サービス」売りを進めると共に、AI・ビッグデータの活用やブランド力の強化等の事業構造の改革を進める必要がある。また、最先端技術を活用し、新興国ならではの課題を克服する為の新製品や新サービスが創出され、先進国へ逆輸入されるリバース イノベーションが加速。我が国においても、アジア新興国企業と日本企業が連携して迅速に成功モデルを生み出し、日本への逆輸入を進める取組みを推進する。



三)スタートアップを生み出し、規模を拡大する環境の整備

 成長戦略が成功する為には、イノベの担い手であるスタートアップを徹底支援し、新たなビジネス・産業の創出を進める必要がある。我が国のスタートアップの数は近年増加傾向にあるが、企業年齢〇年から二年の企業が企業全体に占める割合は十三.九㌫に留まり、米(二十.五㌫)、英(二十二.四㌫)、仏(二十二.八㌫)に比べて低い。


また我が国の上場企業は、ソニーや本田技研工業等と昭和二十年から同二十九に設立された企業が百十九社と最多。一方、米上場企業はアマゾンやフェイスブック等と平成七年から同十六年に設立された企業が百二十四社と最多。


更に我が国では成長するスタートアップが少なく、ユニコーン(時価総額十億㌦超の未公開企業)の数は、令和三年三月一日現在で米の二百七十四社、中の百二十三社、欧の六十七社であるのに対し、日本はたったの四社に留まる。この様に我が国では、イノベの担い手であるスタートアップの数は依然として低い水準に留まっており、成長するスタートアップは極めて少ない。


日本の将来を築いていく為には、終戦直後に続く第二の起業ブームを起こす必要があり、スタートアップの創出・成長発展の為の環境整備に取組む必要がある。


例えば我が国の場合、VC・CVC投資やエンジェル投資の規模が米国等と比べて非常に小さい。米国では、スタートアップの足元の利益ではなく、将来の成長性を見込んで多額の投資が集まるのに対し、日本では短期的に利益を出す事が求められる為、スタートアップが成長投資を行う事が難しい状況にある。


スタートアップの創出・成長発展に向け、挑戦が奨励される社会環境の整備、兼業・副業の促進等による人材の流動化、新SBIR(中小企業 技術革新)制度の着実な運用によるスタートアップからの政府調達、雇用を増やすスタートアップに対する政策金融による融資、SPAC(特別買収目的会社)制度の検討等による新たな上場環境の整備、大企業とスタートアップとの取引関係の適正化等を総合的に進める。



四)新規株式公開(IPO)プロセス及びSPAC制度の検討

 日本の上場の仕組みは新たなチャレンジを起こそうとする起業家にとって優しい制度とは言えない。日本の上場の仕組みでは、スタートアップではなく証券会社の顧客が儲ける構造になっており、スタートアップに十分な資金が回っていないとの指摘がある。


具体的にIPRについては、諸外国と比べて起業家が株を売る価格(公開価格)を上場初日に市場で成立する株価(初値)が大きく上回り、起業家の資金調達額が少ない。そうした現状を踏まえ、IPO時の公開価格設定プロセスについて、公取委において実態把握を進める。


また日本証券業協会において、スタートアップの持続的な成長に資する様に実需を反映する為の公開価格設定の在り方やよりスタートアップの意向に沿った株式の配分の在り方等について検討を進め、本年内を目途に中間的な取りまとめを行う。


併せて、諸外国で導入されているSPAC制度についても、買収時にスタートアップと投資家が合意して価格を決める為、互いに納得した価格で上場できる仕組みであり、現在の上場の問題を解決する上でも意味があると考えられる。一方、投資家保護が必要。


この為、東証において上場時の基準や開示の在り方や買収に反対した場合等の一般投資家への資金の返還、買収先企業の開示等と投資家保護策等の観点からSPACを導入した場合に必要な制度整備について諸外国の状況も踏まえ、具体的に検討を進め、論点を整理した上で結論を得る。



五)大企業とのオープンイノベの支援

 大企業とのオープンイノベを促進する税制措置について、スタートアップ企業の株式取得を通じて連携を深める取組みが増える様に、対象となる株式の範囲の拡充を検討し、本年末の来年度税制改正において結論を得る。また、大企業とスタートアップの人材マッチングの支援を実施する。



六)公正な競争を進める為の競争政策の強化

 新しい資本主義を進めていく為には、地方の中堅・中小企業、下請企業、スタ ートアップを含めて豊かな中間層を生み出していく事が重要となる。


欧米では、競争当局から他の政府機関等に対し、唱導(アドボカシー;提言)が活発に行われ、公正な競争環境の整備が着実に進められている。我が国でも、専門性の高い外部人材も活用しつつ、スタートアップ・中小企業の取引の適正化や通信等のデジタル市場・電力等のエネルギ市場といったインフラ分野等を始めとして、公取委による唱導機能の実効性を強化する。


専門的な知見の向上等の質的な充実と併せ、組織・人員の抜本的な拡充等の量的な充実を図る事により、公取委の体制を重点的且つ計画的に強化する。



七)デジタル広告市場の透明化・公正化の推進

 デジタル市場を支える重要なインフラであるデジタル広告に関して、市場が寡占化する中でプラットフォーム事業者による一方的なルール変更や広告の閲覧数の水増しによる広告費の虚偽請求等と様々な課題が指摘されている。


こうした状況を踏まえ、「デジタルプラットフォーム取引透明化法」の対象にデジタル広告市場を追加し、大規模なプラットフォーム事業者に対して、ルール変更の際に内容や理由を事前開示する事や広告費の不正取得のリスクに関する説明の徹底を求める等、透明化・公正化の為の制度整備を行う。



 



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