経団連が岸田内閣へ増税を要望、「労働分配率(内部留保)」には触れず

【経済報道】 経団連(会長:十倉雅和)は、令和三年十一月十一日に『新内閣に望む』を公表した。本要望では、岸田内閣が提示している「労働分配率」には触れなかった。


安倍内閣以降、その政策によって経団連を核とする上場企業群は過去最高益を記録。日本企業の「現金・預金(内部留保)」の残高は日銀試算で三百兆円にまで積み増した。アベノミクスで上場企業群は好景気だったが、国民がアベノミクスの好景気を実感できなかった理由は、上場企業群が労働者に分配しなかった為である。実質不景気の主因と言える。政治は仕事をしていた。


再三、麻生太郎(庚辰)前・財務大臣は会見等にて、日本企業の内部留保を指摘していた。


本要望で経団連は、「新たな資本主義」が経団連の「サステイナブルな資本主義」と軌を一にする、と言う。市場原理に過度に傾注した「新自由主義」は、較差の拡大・再生産等によって生態系の破壊を生んだ、とする。そして較差是正に関しては、「価値創造による経済のパイ拡大を目指し、成長を維持しつつ、その成果の適正な分配を図るべきである。」とした。


“公共部門”による分配を求め、日本経済を牽引する経団連は、“民間部門”による分配(三百兆円の内部留保)に触れなかった。また、成長(財政拡大)と財政健全化(税収増)の両立を求めた。事実上、増税しなければ、膨れ上がる社会保障関係費(年金・医療費等)に対し、財政健全化は不可能。


以下が経団連が岸田内閣に望む七項目。



コロナ対策

  1. 公衆衛生の危機に対応する、国・地方自治体による病床調整・入院調整等に関する強い指揮権限・体制の整備
  2. 経口治療薬等を活用した一般病院等での早期治療体制の確立
  3. 国産治療薬・ワクチン開発支援、ブースタ接種の実施を始めとする感染症収束に向けた取組みの推進
  4. ワクチン・検査パッケージを活用した社会経済活動の活性化
  5. ワクチン接種者に対する帰国・入国後待機期間の免除
  6. 国内外でシームレスに活用できるワクチン接種証明のデジタル化 



「サステイナブルな資本主義」の確立

  1. Society 5.0 for SDGsの実現をゴールに据えた、Withコロナ・Postコロナ、超高齢・人口減少時代の経済社会、対外経済関係の在り方を俯瞰するビジョンとロードマップ・KPIの策定 



科学技術立国を目指したDX、GX、スタートアップ振興

  1. デジタル社会やカーボンニュートラルを目指したDX、GX分野でのハード・ソフト両面におけるイノベーション創出や社会実装に向けた複数年度に亘る予算措置、研究開発税制の強化や投資減税措置の拡充・創設(半導体、AI、量子、バイオ、革新的製造技術、水素・アンモニア、原子力、核融合、CCUS<二酸化炭素回収・有効利用・貯留>、Beyond 5G等)
  2. 中堅・中小事業者も含むサプライチェーンを通じたDX、GXの実現に向けたデータ連携の推進
  3. DX、GXを始め、幅広い分野における規制・制度の抜本的な見直しと改革の実現
  4. 若手研究者への支援、次世代技術への重点投資
  5. 「デジタル臨時行政調査会」による国・地方を通じたデジタルガバメントの確立・徹底、教育・医療・民間部門におけるDXの加速、個人情報を含むデータ利活用のルール整備と促進、サイバセキュリティ強化
  6. 科学的根拠に基づくGXのロードマップの明示と社会インフラ(水素も含む次世代電力・エネルギーシステム)の整備
  7. 再エネの主力電源化や原子力の持続的活用を含むエネルギ政策の具体化
  8. 成長や競争力に資するカーボンプライシングの議論の深化
  9. 経済の構造変容に向けたスタートアップの振興(起業家教育、人材流動化、成長資金供給、税制支援、調達改革等)



地方創生

  1. DX・GXを梃子とした内発型の地域づくり、「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けた地方への成長投資の加速
  2. テレワーク等を活用した地方への新たな人の流れの創出、地方分権等に向けた国と地方のあり方の検討推進
  3. 農業の成長産業化・輸出産業化、持続可能な観光産業の実現に資する構造改革の推進
  4. 特区、サンドボックス、グレーゾーン解消制度等の活用
  5. 取引価格適正化等を通じた活力ある中堅・中小企業・小規模事業者の創出
  6. 防災・減災・国土強靭化の推進
  7. 第2期復興・創生期間の早期完遂に向けた、官民連携による東日本大震災からの復興支援活動の加速



働き方の変革と人材の育成

  1. 裁量労働制の対象拡大の早期実現等、労働時間の長短に応じた賃金支払を原則とする現行労働法制の見直し
  2. 変化の激しい人生百年時代に対応した、産学官連携による「学びと仕事の好循環」の確立。リカレント教育・リスキリング等の推進支援
  3. 成長分野・産業等への円滑な労働移動に資する環境整備
  4. 多様性を受容する新しい時代に対応した初等中等・大学教育改革
  5. 理数系教育の充実・拡充、グリーン人材、グローバル人材の育成強化(邦人の海外留学・外国人の国内留学支援と海外大学との連携強化)
  6. 新産業創出に向けた産学官連携の中核となる地方の大学等の機能強化・環境整備
  7. ダイバシティ&インクルージョンの推進



国際社会との積極的な連携・協調

  1. 自由で開かれた国際経済秩序の再構築
  2. 自由な貿易・投資に留意した経済安全保障の確保
  3. 基本的な価値観を共有する諸外国との協調の推進
  4. 国境を越えるデータ流通の推進
  5. 地球温暖化・国際課税等の国際的ルール形成の主導。経済連携協定、投資協定・租税条約、JCM(二国間クレジット制度)の拡充



財政健全化と持続可能な全世代型社会保障改革

  1. 成長と財政健全化の両立。成長に資する賢い支出の徹底
  2. 効率的・効果的且つ安心な医療・介護提供体制の構築も含めた全世代型社会保障改革の実現

写真:十倉会長が鈴木財務相を訪問/日本経済団体連合会

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