『情報機関』の極超強化と『スパイ防止法』

【軍事・書籍考察】 福山隆(丁亥)元・陸将は、著書「防衛省と外務省/幻冬舎」にて「殆どの国家には専門の情報機関が存在しますが、それが充実したものになるか、或いは貧弱なものになるかは、民族や社会全体がもつ知的レベル、危機感、目的意識等によって変わります。」と伝える。

本書は十年前に発行。


戦争には「情報戦」「経済戦」「軍事作戦」の三類型がある。情報戦を制するのは、情報機関(諜報機関)と報道機関。日本の情報機関に「情報本部/防衛省」等はあるが、「内調(内閣情報調査室)/内閣官房」等は主に国内向け。日本には国外向けの情報機関が不足している。


戦前は不足どころか、世界屈指の情報機関を有していた。陸軍「秋丸機関(経済謀略機関)」「中野学校」等が該当する。軍事大国(核保有国)に囲まれている日本に必要なのは、世界に伍する情報機関である。




<日本を取り巻くスパイ国家群>

 米国には「中央情報局(CIA、スパイ)」を含め、計十六の情報機関がある。それらを統合するは「国家情報長官」。米国の長官は日本の大臣に値する。「国家情報大臣」となろうか。


中国は「中共・中央統一戦線工作部」や「国家安全部」、「中央軍事委員会 連合参謀部情報局(スパイ)」等を擁す。北朝鮮も「朝鮮人民軍 偵察総局(スパイ)」等を擁す。ロシアは「対外情報庁(SVR、スパイ)」等を擁す。


軍事大国にスパイが居ない情報機関は存在しない。では何故、日本の情報機関は弱いのか。元陸将は防衛省と外務省の二元化を指摘する。



三大情報

 戦後の日本には軍部が無かった為、外務省が実質的な「国防省」の役割を担っている、と。「これは国際的に見てかなり異例な体制と言えるでしょう。」と苦言を呈す。その外務省につき、「残念ながら、私にはそのインテリジェンス機能が戦前よりも劣化している様に感じられてなりません。」と憂う。インテリジェンスは情報・諜報の事。


先ず、以下の三大情報を確認されたい。

  1. 戦略(国家安保・防衛)=外交・軍事
  2. 作戦=軍事
  3. 戦闘=


外交は外務省、軍事は防衛省の役割分担の筈が、在日米軍(核戦力を含む)は外務省の所管で、自衛隊は防衛省が管理。日米同盟において、米軍のカウンタパート(同格)が外務省になってしまっているのが現実。外務官僚が日本の防衛を担っているのだ。当然、外務官僚は軍事の専門家ではないし、「防衛大」も卒業してない。




<諸悪の根源>

 軍事と外交は車の両輪であり、外交は「個人プレイ」、軍事は「組織プレイ」。戦前は役割分担していたのが、戦後では事実上、外務官僚の下に自衛隊が居る。何故か。元陸将は「憲法九条と日米安保条約は、ワンセットで考えるべきでしょう。」と、この二つが米国の手綱と主張する。当時の米国に仕組まれた。


日本の軍部は解体され、現行憲法を押し付けられ、米国にとって都合の良い「日米地位協定/日米安保」の締結で、自衛隊を米軍の管理下に置いた。その点は元陸将も認めており、「自衛隊も、実質的には米軍の世界戦略にはめ込まれた一つのピースに過ぎません。」と、自衛隊が日本人用ではなく、専らアメリカ人用である点を突く。


よって、自衛隊の軍事情報は米軍経由。外務省の外交情報も基本的には米国経由となり、日本人自ら属国化を望んでいる。元陸将は「少なくとも私は、日本が真の意味で国家として独立するなら、現在の様な対米従属は改めるべきだと考えます。」と、日本人へ訴える。


平成二十三年「東日本大震災」にて当時の民主党内閣・菅直人(丙戌)総理が、初めて自衛隊幹部と面会した時の第一声を記した。「私が陸海空自衛隊の最高指揮官だそうですね。初めて知りました。」と元陸将は一例を挙げた。



情報戦は性悪説

 以下二点が、軍事的な情報活動の究極目的。

  1. 自国が決定的なダメージを被る情報(脅威、弱み)
  2. 自国が乗じ得る敵の弱点情報(機会、強み)


情報の世界は“性悪説”と断ずる。「どの政治家が総理のポジションにあったとしても、現在のインテリジェンス システムでは同じ様な事は幾らでも起こり得ます。」と菅総理が福島・原発事故で起きた時の行動の原因を指摘した。


日頃から実在するインテリジェンス機関を意のままに総合的に動かし、あらゆる情報を自分の下に集約できるシステムを構築し、タイムリに適切な決断を下すのが、「大軍の将」としての総理大臣の役割です


至極全うな意見だ。「知的レベルの低い国民の民主主義は、衆愚政治に陥るでしょう。」と、主権者・国民のレベルを問う。もし政治家が愚かな事をしていたのであれば、そもそも主権者が愚か、となる。現在の都政が典型的。都民が愚かと言える。


また「民主主義国家においては、如何なるインテリジェンス機関を持つか、という事自体も、国民の総意によって決まります。」と。その国の情報機関のレベルは、その国の社会全体が共有する危機感の高さによって決まる、と。若者・若手は重視されたい。




<日米開戦=情報戦>

 以下は、本書で引用された佐藤守男(壬申)元・防衛庁事務官(通信情報専門官)の「情報戦争の教訓/芙蓉書房出版」より。

例え、消極的・受動的手段であっても、収集可能な公開情報は何でも集めるという、迫力に満ちた情報収集力が、我が国では日露戦争以後、伝統的に欠如していた様に思われる


日米戦争時、陸海軍の情報連携が歪(イビツ)であった。総理大臣・陸軍大臣であった東条英機(戊子)は海軍の「真珠湾攻撃」を知らなかった。大本営にて真珠湾攻撃は日米戦争となるので、禁止されていた。海軍は御前会議も欺き、強引に海戦へ持っていった。東条総理が知った頃には止めようが無かった。


真珠湾攻撃は、昭和十六年十二月。東条内閣は同年十月から。海軍の軍事作戦は二ヶ月では準備できない。詰まり、真珠湾攻撃は東条内閣の前の「近衛内閣」にて仕組まれた。



共産主義の内閣と共産主義の米政権

 ソ連のスパイ・扇動者として逮捕された尾崎秀実(辛丑)元・朝日新聞記者は、近衛内閣の嘱託(ブレーン)。風見章(丙戌)元・朝日新聞記者は、近衛内閣にて「内閣書記官長」及び司法大臣を務めた。共に共産主義者。写真は藤原家筆頭の近衛文麿(辛卯)元・総理。


共産主義内閣と海軍により、戦わなくてもよかった米国に敗戦した。当時の米国はソ連寄りの共産主義ルーズベルト政権。米ソが共に連合国だった理由。当時の日本は、回避する予定だった日米開戦を情報戦の最後の詰めで負けていた。情報戦に負けると、戦争が勃発する例。写真はフランクリン・ルーズベルト(壬午)元・米統領。


そして元陸将は、「国家的インテリジェンスのレベルを決定する要素は何か。それこそが、国民一人ひとりの知恵と知識の集積だと私は思います。」と重ね、『スパイ防止法』の制定を求める。戦争を勃発させない為でもある。戦後、昭和六十年に「スパイ防止法案」が自民議員より立法されたが、審議未了廃案となった。


若き主権者が求めるか、否か。上の世代は日本を情報で護る事を求めてこなかった。


記事:金剛正臣

画像:『軍事的視点で読み解く 米中経済戦争』 (ワニブックス【PLUS】新書)発売記念/八重洲ブックセンター、自衛隊アフガン派遣 知られざる“深層”に迫る/NHK、防衛省と外務省 歪んだ二つのインテリジェンス組織/幻冬舎、情報戦争の教訓―自衛隊情報幹部の回想/芙蓉書房出版、近衛内閣と支那事変 ― 東京で昭和12年学会公開研究会〔1月18日〕/国体文化、Franklin D. Roosevelt/Britannica

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