運用益が上がる傾向は何か|金融庁『安定的な資産形成に向けた金融事業者の取組み状況』

【金融報道】 令和二年九月十八日に金融庁/内閣府は、『安定的な資産形成に向けた金融事業者の取組み状況』を二十一頁にまとめて公表した。


同庁は、安定的な資産形成に向け、個々の利用者がライフ プラン等に応じて金融商品・サービスを適切に選択していく事を重要としている。「長期・積立・分散(長積分)投資」では、投資時期の分散による“高値づかみ”のリスク等の軽減や投資対象の分散によるリスク分散、長期保有による元本割れのリスクの低減が期待でき、資産形成において一つの有効な方法に挙げる。


 二月下旬以降のコロナ禍の市場変動(上図)も含めた過去の実績データに基づくシミュレーションでは、「国内・先進国・新興国の株式債券」と「国内のみの株式債権」に長積分投資を行った場合に「定期預金だけで積立」を行った場合と比べ、二十年間に亘ってリターンが大きくなっている。


実際に長積分の各投資手法が、それぞれ個別具体的にどの程度安定的な資産形成へ寄与するかを検証する事は容易でない。だが、投資信託の平均保有期間が長い程に運用損益がプラスの顧客比率が相対的に高い傾向を一定程度で確認。一部の金融事業者の公表情報からも、口座を開設してからの経過年数が長い顧客層投資信託をより長期で保有している顧客層は、運用損益がプラスの顧客比率が相対的に高い傾向も確認した。




<共通KPIと自主KPI>

 同庁は各事業者に対し、リターンに関連する三指標について共通の定義により公表する事を求めている(共通KPI)。KPIとは重要業績評価指標(Key Performance Indicator)。平成二十九年から令和元年六月末までに三百九十社(+百九社)が「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPI」を公表した。


  1. 投資信託の運用損益別 顧客比率
  2. 投資信託の預り残高上位二十銘柄のコスト・リターン
  3. 投資信託の預り残高上位二十銘柄のリスク・リターン


 コロナ禍による市場の変動を受け、三月末時点で、運用損益がプラスとなっている顧客の割合(金融事業者二百十八社の単純平均)は約三割。昨年三月末時点と比較し、およそ半分程度に減少した。マイナスとなっている約七割の顧客の内、約八割が「マイナス三十㌫以上、〇㌫未満」の運用損益となった。投資運用業者は、運用損益がプラスの顧客割合が比較的良好な水準だった。


要因分析としては「投資信託 保有顧客数」の増加率と運用損益がプラスの顧客比率の減少率の分布を視ると、運用損益プラスの顧客比率が大幅減の事業者の中には「投信保有 顧客数」が大幅に増。元年度に新たに資産運用を始めた顧客は、価格変動リスクを低減できないまま、短期的な相場の変動の影響を大きく受ける結果となったと考えられる。


共通KPIの二と三につき、コロナ禍による市場の変動を受けて元年三月末時点と比較し、全体としてリスクが増大。リター ンは低下。コストには大きな変動はなかった。


自主KPIにつき、上位の十指標を公表。八割超の銀行が安定的な資産形成に有効とされる「積立商品の保有者数や受付件数(一位)」をKPIに設定。昨年よりランクアップ。次いで「FP等 資格保有者数・保有率(二位)」。「預り資産残高(四位)」は昨年と変わらず、「預り資産保有者数(っ七位)」が下げ、「販売額上位 運用商品(六位)」が新たにランクインした。


その他、実名を伏せて各金融事業者の方針や評価を公表している。


記事:羽田野正法(FP技能士)

画像:安定的な資産形成に向けた金融事業者の取組み状況/金融庁

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