【日本報道】 皇后陛下(癸卯)は、皇紀二六八〇(令和二)年にご生誕日を迎えられ、実に四千字を超えられるご感想を公表なさった。皇后陛下は、新型コロナウイルス感染症の状況に鑑み、同日の祝賀行事をお控えになった。
「今年もこうして無事に誕生日を迎える事ができます事を有り難く存じます。今年は、特に命の大切さ、尊さについて改めて深く思いを寄せる年になりました。一九二〇年頃に世界的に大流行したスペイン インフルエンザ以来、ほぼ一世紀を経た今年、思いも寄らず世界中が新型コロナウイルス感染症の大きな災厄に見舞われる事になり、大変に心の痛む年でした。
新型コロナウイルス感染症により、世界中で、そして日本国内でも多くの方が亡くなっている事に対し、この場をお借りしてお悔やみ申し上げます。世界の各地で、或いは日本国内で、多くの方がこの感染症に苦しみ、懸命の治療にも関わらず亡くなっていく現実は、本当に辛いものです。
このような中、医療に従事される皆さんが、大勢の患者さんの命を救う為に、そして、感染の拡大を防ぐ為に、日夜、献身的に力を尽くしてこられている事に、心からの敬意と感謝の意を表したいと思います。
医療に従事される皆さんには、特に感染拡大の初期には、治療法もまだ確立されない中、また、防護服やマスクを始めとする医療物資が大きく不足する中にあって、どれ程の不安と緊張の中で、自らの命の危険も顧みず、強い使命感を持って治療に当たってこられた事かと、本当に頭の下がる思いが致します。
(国民のお一人お一人が掛替えのない存在)
我が国では、幸いにして、今までの所、感染爆発の様な事態には至らずに、諸外国と比べると感染拡大をある程度の規模に抑え込む事ができておりますが、これは、感染症対策の専門家の方々の見識とご尽力、政府や地方自治体による取組み、そして、多くの国民の皆さんによる様々な面での協力と弛みない努力のお陰であると、非常に有り難く思っております。
一方で、感染症の感染拡大が経済社会活動に大きな影響を及ぼしている結果、経営破綻や失業に追い込まれる等、苦境に立たされている方が大勢いらっしゃる事にも大変心が痛みます。
また、新型コロナウイルス感染症に感染された方や医療に従事されている方、或いはそのご家族に対して、差別や偏見の目が向けられるという問題が起きている事や制約の多い生活が続く中で、家庭内での暴力や子どもへの虐待が増加している可能性があるという事も耳にしており、案じています。大きな禍に見舞われている社会の中で起こりやすい問題とはいえ、今後、皆が心穏やかに日々を過ごせる様になる事を願って止みません。
私自身は、特に昨年来、全国の多くの皆様から寄せられた温かい祝意に感謝しつつ、国民の皆様の現在の困難な状況を思う時、国民のお一人お一人が、幸せであって頂きたい掛替えのない存在であるという事を身に沁みて感じます。
感染症の不安が渦巻く中、様々な面で自由が失われている日々の中で、多くのご苦労と努力を重ねてこられたものとお察し致します。
(子ども達の現況を伺う)
また、新型コロナウイルス感染症により苦労をされている方々の置かれた状況をより良く理解し、心を寄せる事ができればとの思いで、様々な分野の専門家や現場で対応に当たられている方々から、陛下とご一緒に度々お話を伺ってきました。
医療関係者の皆さんの置かれた環境やご苦労、お年寄りや障害を持った方々を巡る状況、社会的孤立を深めやすい生活困窮世帯への影響や、そうした世帯の子ども達への学習支援活動、感染対策と学習との両立に取組む学校現場の状況等、現場に従事し、取組みを進める方々から直接現状を伺う事ができました。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中にあって、特に、ご高齢の方や基礎疾患のある方のご心配も如何許りと思いますが、その様な方々や障害のある方、或いは生活に困窮している方や子ども達等、社会的に弱い立場に置かれている人々を支える努力をされている方々の尽力にも大きなものがあると思います。
同時に、現在のこの状況の中で自分たちに何ができるかを考え、行動しようとする若い人達も含む多くの方の新しい試みや取組みを目にする時、勇気付けられ、心温まると共に、人と人との絆の大切さを強く感じます。
困難な状況に直面する人々を支え、力を尽くしている全ての方に深い敬意と感謝の意を表したいと思います。
現在、新型コロナウイルス感染症の感染者や重症の方が再び増えてきており、予断を許さない状況が続いています。ワクチンの開発が進み、この感染症の克服に少し光が見えてきている様にも感じますが、一朝一夕に克服できるものかどうか分からない事も多いと思われます。この様な中にあって、今後、私達皆が心を合わせ、お互いへの思いやりを忘れずに、困難に見舞われている人々に手を差し伸べつつ力を合わせて、この試練を乗り越えていく事ができます様、心から願っております。
(災害・五輪・科学)
また、今年も残念ながら、国内外で自然災害が発生し、国内では特に七月の豪雨により、熊本県を中心に多くの方が亡くなられたり、行方不明になられたりした事にも深く心が痛みました。特に、体の不自由なご高齢の方が数多く犠牲になられ、お気の毒な事でした。亡くなられた方々に心から哀悼の意を表しますと共に、ご遺族と被災された方々にお見舞いを申し上げます。これから寒さも厳しくなります折から、避難生活を続けておられる方々を始め、皆さんにはくれぐれもお体を大切にお過ごし頂きたいと思います。
今年はまた、多くの人が楽しみにしていた東京二〇二〇オリンピック・パラリンピック競技大会が、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、延期になりました。オリンピック・パラリンピックの東京大会実現に向けて尽力してこられている関係者や選手の皆さんのご苦労も多い事と思い、皆さんのご努力を深く多としたいと思います。
翻って、この度、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから無事に地球近くまで帰還を果たし、リュウグウの砂を採取したとみられるカプセルが成功裡りに回収された事は嬉しいニュースでした。関係者の皆さんの払われたご努力も如何許りだったかと思います。今後、持ち帰られたとみられる砂の分析・研究から、太陽系の成り立ちや生命の起源等について、新たな科学の扉が開かれる事が期待されていると聞き、楽しみにしております。
(オンラインによるご公務)
今年、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の為に、私達の公務も様々に変わる事になりました。戦後七十五年に当たっての「全国戦没者追悼式」や「議会開設百三十年記念式典」等が規模を縮小しての開催となった他、多くの行事が延期を余儀なくされました。先月には、当初の計画より規模を縮小してではありましたが、「立皇嗣の礼」が執り行われました。これにより、昨年のお代替わりに伴う主な儀式や行事が無事に終了しました事に安堵しております。
他方で、多くの国民の皆様と直接触れ合う事が難しくなっている事を残念に思います。現在は、様々な場所を直接訪問する事が難しい状況の中、最近では、オンラインによる施設の視察等を行う事ができる様になりました。
先月には、オンラインにより日本赤十字社医療センターの視察を行った後、日赤の三箇所の拠点病院のスタッフのお話を伺う事ができ、また先々週には、時期が少し遅くなりましたが、敬老の日に因んでの訪問として、ご高齢の方々による溌剌とした活動の様子を見せて頂き、集まっている方々とお話しできました事を嬉しく思いました。オンラインという方法により、この様に国民の皆様との触れ合いの機会を持てる事は有り難く、今後ともその様な機会を大切にしていく事ができればと感じております。
(天皇陛下、上皇上皇后陛下)
また、陛下には、夏前から皇居宮殿での儀式等のご公務が再開され、お忙しい日々をお送りになっていらっしゃいますが、変わらずお元気にお過ごしの事を何より有り難く思っております。
上皇上皇后両陛下には、本年三月、皇居「吹上仙洞御所」から高輪「仙洞仮御所」にお移りになりました。新型コロナウイルス感染症の影響により、外へのお出ましも難しい日々と存じますが、くれぐれもお体を大切になさり、お健やかにお過ごしになります事を心からお祈り申し上げます。そして、日頃より、私達を温かくお見守り戴いております事に厚く御礼を申し上げます。
私自身は、本年、上皇后陛下から引継がせて戴いた養蚕に初めて携わり、関係者の手助けも得て無事に終える事ができました事を有り難く思います。その間、養蚕農家の様々なご苦労にも思いを馳せましたが、最後に、蚕の作り上げた繭から美しい生糸が紡がれた事を感慨深く思いました。この間、上皇上皇后両陛下に温かくお見守り戴きました事にも、重ねて感謝申し上げます。
(愛子内親王殿下)
愛子は今年、学習院大学・文学部「日本語日本文学科」の一年生になり、先日、十九歳の誕生日を迎えました。早いもので来年には成人する事を思いますと、幼かった頃の事も懐かしく思い出され、感慨深いものがあります。
現在は、新型コロナウイルス感染症の影響により、世の中の多くの学生の皆さんと同様に、オンラインで授業を受けながら、新しい分野の勉強に忙しい毎日を過ごし、大学生としての生活を大切に過ごそうと努めている様に見えます。
愛子には、これからも多くの方から色々な事を学びながら、十代最後の年を心豊かに過ごして欲しいと願っています。
(皇后として務め)
新型コロナウイルス感染症により、世の中の状況や私達の公務の形が変化する中、私自身は、今年も体調に気を付けながら、できる限りの務めを果たそうと努めて参りました。その際、陛下には、常に私の体調にお気遣い戴き、深く感謝申し上げます。これからも、陛下のお務めの重さを常に心に留め、陛下をお傍でお支えできます様、また、皇后としての務めを果たすべく、健康の一層の快復に向けて努力を続けていきたいと思います。
この機会に、国民の皆様から日頃よりお寄せ頂いている温かいお気持ちに対し、厚く御礼を申し上げたいと思います。
最後に、改めまして新型コロナウイルス感染症の終息を願うと共に、国民の皆様が心を寄せ合い、この困難な状況を乗り越えていく事ができます様、心から願っております。
文字修飾:報道府、写真:宮内庁
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