【経済考察】 令和二年十二月二十九日にワクセル(主宰:嶋村吉洋)は、「論語と算盤」の著者・渋沢栄一(庚子)の玄孫で「渋沢栄一 百の訓言/日本経済新聞出版」等の著書がある実業家・渋澤健(辛丑)の講演会のレポートを公表した。開催は九日。
ワクセルは、次世代を担う起業家の輩出と人財育成に取組んでいる。
渋澤は、令和の日本に共通する渋沢栄一の言葉「論語と算盤」から学ぶ社会的課題への取組み方、そして今の日本人が何を大事にして動いていくべきなのか、を伝えた。
<合本主義の時代>
講演は、JPモルガン・チェース銀行のジェームズ・ダイモンCEOが最近に発した言葉から開幕。ダイモンCEOによれば「Shareholder Capitalsim(株主資本主義)からStakeholder Capitalism(利害関係者 資本主義)になる。」との事。これからは株主だけではなく、ステークホルダの価値向上に向けた動きが重要であるという。
渋澤は「ESG投資」と重なる動きであると説き、同時に高祖父・栄一の言葉とも重なる所があると言う。渋澤は「合本主義」という言葉を挙げた。
- 合本主義;公益を追求するという使命や目的を達成するのに最も適した人材と資本を集め、事業を推進させるという考え方
この合本主義を利害関係者 資本主義とした。例は栄一の功績の一つ「銀行」。明治初期の日本には銀行という概念が無かった。栄一は「銀河は大きな河の様なものだ。銀行に集まってこない金は、溝に溜まっている水やポタポタ垂れている滴と変わりない。折角、人を利し、国を富ませる能力があっても、その効果は顕われない。」と唱えた。
これは「銀行に一滴ずつ水を集めて大河を創ってこそ力になる」という意。一社ではなく、多くの会社が集まる事で日本全体が豊かになると示唆した。故に栄一は五百社の会社設立に関与したと言われている。合本主義の成果である。
変化性リスクへの対応
リスクには価格・信用・財務・フィジカル等がある。その中でもトランジション・リスク(変化性リスク)を強調。同リスクの一例として「SNSの普及」がある。以前は、何かトラブルがあっても報道さえされなければ大事には至らなかったが、現在ではどこかで簡単にSNSで拡散して炎上する。
経営者は同リスク、詰まる所、利害関係者と向き合うべきとした。その利害関係者の範囲は徐々に広がっている。
<今の富裕層は恩恵を与えているか>
渋澤は「論語と算盤」には現代に通ずるものがあると。それは「持続可能性(サスティナビリティ)」。栄一は「合理的な経営」を提唱した。これは「その経営者一人が如何に大富豪になっても、その為に社会の多数が貧困に陥る様になる事では、その幸福は継続されない」という意。「正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続する事はできない。従って、論語と算盤という懸け離れたものを一致させる事が今日の極めて大切な務めである」とも大正初期に述べていた。
この「富の永続」とは、持続可能性と置き換える事が可能ではないかと渋澤は言う。算盤勘定だけ、論語だけでは、持続可能性は保たれない。二つが両輪となって未来へ進む事で、持続可能性は実現される。
他にも「インクルージョン(一体性)」の様な考え方も、栄一は「富の平均的分配は空想だ」との発言より、一㌫だけが裕福になるのではなく、九十九㌫も成果によって恩恵を授かる社会を求めた。
俯瞰力とシブサワ循環
「常識とは何か」を考える力も大切とした。栄一は「智・情・意の三者が権衡を保ち、平等に発達したものが完全の常識だと考える」と。どれか一つだけ欠けていても、経営者視点が揺らぐ。違う次元にあるものや世界の流れ、時代の流れをみる力等の「俯瞰力」が日本の経営者は未だ乏しいと厳しい。次の十年で大事になるのは「WHY」の力、俯瞰して物事を見る力。
最後に渋澤は「見える未来と見えない未来がある。」と。小説家マーク・トウェインの有名な言葉の一つ「歴史は繰り返す事はない。但し、リズム感はある。」から日本の近代化社会の周期性を指し示す。
- 一八七〇-一九〇〇(破壊の三十年):維新
- 一九〇〇-三〇(繁栄の三十年):西欧社会に追いついた、日露戦争等
- 一九三〇-六〇(破壊の三十年):戦時→戦後
- 一九六〇-九〇(繁栄の三十年):高度成長、ジャパンasナンバーワン
三十年毎に繁栄と破壊のリズム感が続いているとすれば、失われた三十年(一九九〇-二〇二〇)が経過した今、令和二年から新しい時代になると。この周期だと、始まりの年と終わりの年が重なっている。実際にコロナ禍が到来し、嘗て無い程に世界が同時期にストップ。何かが破壊され、新しいノーマルが生まれる節目の時代なのではないかと。
経済学の景気循環では、二十年「クズネッツ循環」と五十年「コンドラチェフ循環」の間。前者の周期は神道「式年遷宮」に一致。経済学は西洋の経済学。日本には日本の経済学がある(例;「日本経済学新論/中野剛志」)。日本経済学では、この三十年周期「シブサワ循環」が合致しているのかも知れない。ともすれば、令和三十二(二〇五〇)年まで繁栄の三十年となる。西洋の各循環名は経済学者の名前。
世界は日本と共に創る
大量生産で"Made in Japan"を謳歌していた高度経済成長・日本は米国等にバッシングされ、平成になると"Made by Japan"として活躍。今度はパッシングされたので、"Made with Japan"が大事になると渋澤は言う。
世界の途上国が求めているものや各国が抱えている社会的な課題等、期待すべき「見える未来」とは今の若者が社会に繋がっていると実感し、SDGsを大事にしながら経済成長も応援し、そしてMade with Japanを創造する事ではないか。渋沢はスイッチを入れるのは僕ら自身であるとし、締め括った。
写真:㈱嶋村、画像: 公益財団法人 渋沢栄一記念財団、【経済学・経済政策】第19章経済変動
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