【芸術報道】　第三十四回『東京国際映画祭／ユニジャパン』は、令和三年十月三十一日に東京・日比谷にて世界各国の国際映画祭のディレクタ等を一同に介したパネルディスカス『ワールド・シネマ・カンファレンス「映画界の未来」』を実施した。

以下が登壇者。

1. フレデリック・ボワイエ；米「トライベッカ映画祭」アーティスティック・ディレクタ
2. カルロ・シャトリアン；独「ベルリン映画祭」アーティスティック・ディレクタ
3. ジャン＝ミシェル・フロドン；映画評論家、映画史家、仏「パリ政治学院」准教授、スコットランド「セントアンドリュース大」名誉教授
4. クリスチャン・ジュンヌ；仏「カンヌ映画祭」代表補佐、映画部門ディレクタ
5. ローナ・ティー；プロデューサ、キュレータ
6. モデレータ・市山尚三；「東京国際映画祭」プログラミング・ディレクタ

市山Ｄよりパンデミック中の映画祭について問うた。仏・ジュンヌ代表補佐（写真上）は「昨年は感染拡大により中止せざるを得なかったが、セレクションレーベルというカンヌ国際映画祭お墨付き作品を発表するという事を行った」と。独・シャトリアンＤは「三月に授賞作品の選考を行い、六月に屋外上映を中心とした一般客向け上映会等のイベントを実施する二段階開催を行った。」とユニークな試みを開催した事を報告。米・ボワイエＤは「昨年はリモート映画祭を開催し、様々な世界中の映画祭をオンラインで繋いで五時間パネルディスカッションを行った。当時は何が起きているか分からなかったから、皆の意見を聞きたかった。」と答えた。

＜ネット配信映画との共存は＞

　フロドン教授（写真上）から「映画祭は皆が集まって、ディスカッションをする事が大切ではあるが、オンラインというデバイスを使って、Ｎｅｔｆｌｉｘ等も敵と見做さずに一緒に共存していく。映画祭も再デザインが必要な時期に来ているのではないか。今後はあり方を問われてくる。」とコロナ禍で勢いを増してきている配信と関係を切り出すと、仏・ジュンヌ代表補佐は「どうやって、今後オンラインとのバランスを取るのか。海外のフィルムを地元の人達の元に持ってくる事も大事だし、こういったクライシスの時には皆で意見を出し合い、映画祭を行う意義は何かという事を話し合う事が大切では。」と語り掛けた。

独・シャトリアンＤ（写真上）は「私は楽観視していません。映画祭は変革の時だと思う。ヨーロッパの映画祭は公的の資金に頼っている。政府が応援してくれないと民間のスポンサに頼る事になり、そうなると多くの人に観て貰う為にオンラインになる。映画祭が変わってきてしまう。」と警戒を鳴らす。

米・ボワイエＤ（写真上）も「オンラインという可能性を残しつつではあるが、映画祭というのは配給会社の様な役割も担っている。映画を一つの空間で知らない人と一緒に観るという体験は絶対に必要。」と言う。

国際的に活躍するローナＰ（写真最上）は「映画祭と言うのは、フィルムを上映するだけでなく、人と人との繋がりが大事だと思う。金銭的に、また時間や距離の問題でこれまで映画祭に行く事ができなかった人が映画祭に参加し易くなったという面もある。」とメリット・デメリット等を含め、多角的な議論が堰を切った様に展開された。

映画界の環境づくり

　更にローナＰは「私達には、グリーンな環境づくりに対する責任があると思う。“コレクティフ５０／５０”というのは、映画業界でも男女の比率を改善していこうという動きですよね。アジアの中で初めて署名したのが東京国際映画祭です。素晴らしいと思います。映画というのは社会の鏡なので、映画祭として今そこにある課題を見つめて発表する事が大切。ジェンダ問題だけでなく、例えば先住民の声等、社会の声を伝える事が社会をより豊かにしていく。」と語った。

会場から「コロナによって、製作される作品に変化はあったか。」という質問に対して、仏・ジュンヌ代表補佐は「映画というのは社会を表すのですが、コロナ禍を直接的に描いている長編は少ないと思います。マスクをしていると、二〇二〇年を描いているという意味合いが強く付いてしまうので、作品が古く感じられてしまう懸念があるからなのかもしれません。短編ではマスクをしたパンデミックを反映した作品が多くなりました。数年経った後に、どうなっているのか楽しみです。」と作品選定作品を含め、各国の製作作品の特徴も語った。

また「オンライン化が進む事によって、どうやって他の映画祭との差別化を図るのか。」という質問にフロドン教授は「複雑な課題だが、映画祭のアイデンティティはプログラミングによって出せると思う。同じ様なルールや定義で開催されていると思うが、映画祭事にテーマや繋がりがあると思う。だから、同じになってしまうという事はあまり危惧していない。それぞれの映画祭が個性という事を大切にしていく必要がある。」と提言をした。

本映画祭は十一月八日まで。

写真：東京国際映画祭