【社会報道】 東京メトロの愛称で親しまれる東京地下鉄(代取:安富正文、比留間英人、山村明義)と東京大学生産技術研究所(所長:藤井輝夫)は、平成二十九年七月二十五日に東京・新木場と駒場にて『鉄道ワークショップ二〇一七』を開催した。このワークショップは中学生四十名を対象として、災害時に自身の頭で考える力をつける為に行われている。本年で五回目の開催。
テーマは「鉄道と防災」。午前中に中学生は新木場の東京メトロ総合研究訓練センタ施設内を見学した。午後は東大駒場リサーチキャンパスで講義を受け、地盤の固さによる地震の影響の違いを実験した。藤井所長(写真上)は「産業界と連携して、工学や科学を小学生、中学生、高校生の皆さんにお伝えしていこうという事をやっております。皆さん色んなハイテクな人工物に囲まれている訳ですけれども、中身や作りを理解する事に繋がっていければ。」と、将来を担う子どもへ工学を早い段階で教える。
<大人は公式を覚えているか>
十二年に東大が創設した大学院「情報学環・学際情報学府」の社会構造学の講師・沼田宗純(写真上)が登壇した。先端表現情報学コースを担い、専門は防災プロセス工学とG空間/ICT防災。沼田講師は「災害時には正しい回答がない。自分で考える力を学んで頂きたい。」と始め、午前中に習った防災の基本的な考え方を整理しながら工学を中学生に教える。「問題は分かっている。解決策のアイデアを出して欲しい。」と中学生に思考を求めた。
地盤の固さで地震の揺れ方が違う事を目で理解できる振動実験では、鉄道模型の前に中学生が集まり、一定の震度で地盤が固いか柔らかいかで電車の脱輪の発生が変わった。沼田講師は「どうやって、これ(この現象)を数式にするのか。」と中学生に問う。ばね・フックの法則(f=kx)が出て、運動の第一法則・慣性の法則(ma=Fにおいて、F=0=a)も復習し、実際に公式に当てはめて揺れの違いを学んだ。ここでは単純なモデル化が大事だ。
中学生達の優れた対策
次にグループ討議に移った。九グループに分け、地下鉄利用時の地震発生を想定した状況や対策を個々が考え、グループ毎に発表する。防災を時系列で考える「地震防災クロノストーリー」を用いた。沼田講師は「想像力がないといけない。訓練しておかないと、その時にできない。人は事前に考えた事以外への対応は難しい。」とシミュレーションの重要性を説く。発表では飲み物や食べ物、テレカ、絆創膏、薬の携行といったものから使う駅の分析、情報収集の方法、街の案内図や道路標識の読み方等が挙がった。グループを一貫して挙がったものは、冷静になる力だった。短時間で自身の考えを纏め、グループ内の意見を整理し、練習なしで発表した。
大人でも学ぶ事が多かった今回のワークショップ。保護者を含めた家族での防災討議の重要性も中学生達は知ったであろう。大人は子ども達の話しを真剣に聴き、リードして対策を用意しておくべきだろう。ただ残念だったのは、一つのグループだけ何も発表しなかった。それどころか話しかけている講師と目も合わせようとしなかった。日本最高学府の講師として、未来ある中学生にきちんと注意をして欲しかった。大人が子どもの規範である。
撮影記事:金剛正臣
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