『行政訴訟』における司法制度の欠陥

【社会・政治(司法)報道】 令和四年五月十六日にグローバルダイニング(7625.Ts)は、東京地裁司法記者クラブにて『特措法違憲訴訟』の判決直後に記者会見を開いた。既報。


この記者会見の中で、弁護団長・倉持麟太郎(癸亥)弁護士と同弁護団・水野泰孝(辛酉)弁護士は、法曹界にとって非常に重要な問題点を指摘した。行政訴訟における司法制度の欠陥だ。


本件につき、倉持弁護士は「国家賠償訴訟でしか、事件を争い得なかった。」と。水野弁護士は「現行法上、損害賠償請求でしか(行政府と)争えない。」と。そもそも同社が提訴した理由は、東京都(知事:小池百合子)による時短命令の違憲性・違法性である。併しながら、実害である損賠が無いと、行政府を訴える事ができない。


詰まり、行政府の悪行を主権者・国民が自由に司法府へ訴える事ができない。


<弱い司法府>

 日独は、行政訴訟の「原告適格」が世界と比較して狭い国。原則として自己の権利侵害を主張する者にのみ、行政訴訟の原告適格が認められる。行政訴訟をさせない様にしている(国民の訴訟権を奪っている)、と見做されても仕方がない。


日弁連(会長:小林元治)は平成二年の司法改革宣言以来、「小さな司法から大きな司法」への転換と「市民の司法」の実現を目指している。結果、同十六年に第二次小泉内閣にて『行政事件訴訟法(行訴法)』を改正。


  1. 救済範囲の拡大;義務付け訴訟・差止訴訟の法定。確認訴訟の例示。第三者の原告適格の拡大
  2. 審理の充実・促進の為の釈明処分の特則の法定
  3. 行政訴訟をより利用し易く、分かり易くする為の仕組み;被告適格の変更。抗告訴訟の管轄裁判所の拡大。出訴期間の延長等。出訴期間等の情報提供(教示)制度の新設
  4. 本案判決前における仮の救済制度の整備;執行停止要件の緩和。仮の義務付け・仮の差止め制度の新設



十八年間動かず

 これは、第一次の行政訴訟の制度改革。第二次以降で「裁量統制の改革」「行政計画・行政立法の争訟手続の整備」「客観訴訟の充実(団体訴訟、納税者訴訟の創設)」「弁護士費用の片面的敗訴者負担制度の導入」等を掲げているが、報道現在で歩留まり。第一次改正から既に十八年が経過している。


令和元年「司法制度改革の課題に関する取組」にて水野弁護士(画像最上)は、『行訴法』の第二次改正に向けて寄稿した。その中で、平成二十四年に日弁連が「行訴法 第二次改正法案」を提言したものの、第二次安倍改造内閣が、「現時点において直ちに行訴法の見直しを実施する必要があると判断する事はできない」と消極的な姿勢であった事を記した。


これを受け、日弁連は即、会長声明にて政府へ行訴法の再改正に向けた検討組織を内閣府に設置する事を求めた。




<団体・住民訴訟制度>

 水野弁護士は最重要項目として、「団体訴訟制度原告適格の拡大)」の創設を訴えている。

個人の権利利益の侵害に引き直す事ができない集団的・社会的利益に対する侵害については、 現在の行政事件訴訟法及び判例法理の枠組みでは、司法救済の機会すら与えられない


一方、同内閣にて『行政不服審査法』は同二十六年に全面改正(五十年振り)。審査請求への一本化や審理員制度・行政不服審査会制度の創設等を抜本的に改正し、国民へ貢献した。



「住民訴訟制度」の改正に関しては、翌二十七年に第三次安倍改造内閣(第一次)にて第三十一次「地方制度調査会/総務省」が、自治体の長・職員に軽過失が認められるに留まる場合には、長等の法的責任を免責とする旨の住民訴訟制度の見直しを提言。


本制度は、住民が訴訟を通し、自治体の長等の違法な財務会計行為を是正・抑制する制度。内閣の提言につき、水野弁護士は「住民訴訟制度が有名無実化されるに等しい。」と指摘。翌二十八年に日弁連は反対意見を発表した。


結果、翌二十九年の改正『地方自治法』では、軽過失免責とはせず、条例によって軽過失の場合の「責任制限」を定める事ができるとの内容にて成立した。


最後に「公金検査 請求訴訟制度」に言及。同十七年に日弁連は、国の違法な財政支出について司法審査を受ける機会を設けるべく、公金検査 請求訴訟制度の創設を提言。同三十年以降、国の財政規律の緩みを司法府で争えない問題が注目され、創設に向けた活動を「活性化させている所である。」と締め括った。


憲法

第十二条【自由権】

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。
又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉の為にこれを利用する責任を負ふ


第十六条【請願権】

何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、係る請願をした為に如何なる差別待遇も受けない


第十七条【国・自治体の賠償責任】

何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる


第三十二条【裁判権】

何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない



第八十一条【違憲立法審査権

最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である

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