【財政報道】 二一一常会は、六月下旬までを予定(延期の可能性アリ)。
今国会では国債『六十年償還ルール』について言及されており、安倍内閣による「新規国債発行=九十兆円/年」の限界突破、岸田内閣による閣議決定「社会保障以外の歳出増=一千億円/三年」の限定解除に続く、歴史的な財政転換点になり得る。
その様な中、国民民主党(代表:玉木雄一郎)は、昨年末に『財政金融政策に関する考え方(第二版)』を公表。同党は、全国政政党内では屈指の財政エリート。政治=財政。
「MMTとTMTとRMTの違いの整理」や「積極財政・成長戦略・金融政策正常化(出口戦略)」の同時追求、「一部永久国債化(日銀保有分)」、新設「教育国債」等を指し示した。
<用語の確認>
先ずはPB(プライマリバランス)の定義を同党より以下に確認する。「PB黒字化」を提唱したのは小泉内閣のブレーンだった竹中平蔵(辛卯)元・総務相。各用語の定義も確認する。
- PB(基礎的財政収支):社会保障・公共事業・防衛等、毎年の政策に必要な支出を毎年の収入(税収等)で、どれだけ賄えているかを示す指標。「政府財政」の健全化の目安。
- MMT(現代金融理論):「独自通貨を有する国(日米中等)は、通貨を限度なく発行できる為、債務不履行にはならない」「高率のインフレにならない限り、財政赤字は気にしなくて良い。国債は幾ら発行しても良い」
- TMT(伝統的金融理論):政府財政の健全化を追求する考え方
- RMT(現実的金融理論):国民党の立場
MMTとTMTを「真逆の主張ですから、幾ら議論してもMMT論者とTMT論者の主張の優劣については結論が出る事はありません。」と断じた。
国民党の考え
- 財政状況が「悪い」よりは「良い」方が望ましい事には誰もが賛同すると思います
- だからと言って、財務省事務次官寄稿の様な内容(つまりTMT的な財政再建策)を今すぐ実行できる筈もありません。経済状況を悪くしても財政状況を改善するという対応は本末転倒です。この論理にも多くの人が合意できると思います
- とは言え、日本は純資産がゼロ近傍だから「大丈夫」か「大丈夫ではない」かという点に関しては、後者に分があります。IMEの最新統計(財政モニター<二〇一八年十月>掲載の二〇一六年時点データ)では、日本の資産に占める金融資産の割合は四十七.一㌫。残り五十二.九㌫は非・金融資産です。橋や道路、山林等の非金融資産は、誰かが購入してくれないと資産価値はありません。国民が購入するとも思えず、だからと言って諸外国(中国等)に売却する訳にもいきません。そもそもゼロ近傍では「大丈夫ではない」と言えますが、仮に「大丈夫」と仮定しても、市場価値が保障されている金融資産は半分弱に過ぎず、実質的にはゼロ近傍ではありません
- 以上を踏まえると、この局面では財政出動、積極財政を維持できる様な工夫をしつつ、一方では異常な金融緩和による財政ファイナンスを是正する意思表示、市場に対するメッセージを発する事が必要です
<国民党の主張>
第一に、日銀保有国債の一部を永久国債化し、積極財政の為の財源確保を図る。日銀は既に約五百兆円の国債を保有しており、これを全部償還する事はできない上、そもそもその必要もない。
日銀も一定量は国債を資産として保有し続ける必要性がある(負債である「銀行券」や「預金見合い」の資産が必要である)事を考えると、その部分は言わば、“根雪”の様な存在と。
例え。上記・五百兆円の内、三百兆円分を市場で政府が発行する「永久債」に入れ替える場合、政府の元本返済負担はその分が減殺。そうしたオペレーションによって確保した財源で、人材育成や企業支援、技術革新等に時限的・集中的に投資し、その後の成長と税収増の歯車を回し始める事を内外に示す。示すだけでなく、実際にやらなくてはならない。
ETF&REIT売却
第二に、異常な金融緩和の象徴であるETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)を保有している状況を徐々に解消。具体的には、日銀の取引先金融機関(メガバンク等)に日銀保有の ETFやREITを相対取引で売却する。購入者には一定期間(例えば二年程度)の保有義務を課し、その代わりに売却価格は購入者に有利に設定する。市場への影響を回避する為の配慮。
併せて、名目「賃金上昇率」が安定的に「物価上昇率+二㌫」となるまで、積極財政と金融緩和を継続。その間に、新設「教育国債」等を活用し、教育・科学技術予算を十年間で倍増。産業と経済を巡航軌道に乗せ、その先の財政金融政策正常化を目指す。
つまり積極財政・成長戦略・金融政策正常化(出口戦略)の三つに対する姿勢を同時に示し、事態の打開を目指す。この事は、遠い先には政府財政の健全化も念頭にある事を意思表示する事になり、日本政府の財政に対する市場の潜在的懸念に対応する。
過去の参照
現在の状況は、昭和一桁(一九三〇)年代の「高橋財政」を再現すればデフレを脱却し、経済を成長軌道に乗せられるとした「リフレ派」の政策の結果。政策を主導したのは、安倍内閣下の岩田規久男(壬午)元・日銀副総裁、「東大」浜田宏一(丙子)名誉教授等。責任者として実践してきたのは 、黒田東彦(甲申)日銀総裁。
当時、高橋是清(甲寅)元・総理は、四度目の蔵相就任。日銀総裁も経験。首相・蔵相・日銀総裁の三つを務めた人は、日本史上、高橋総理ひとり。しかし「リフレ派」は「高橋財政」の捉え方を間違っていると。高橋総理は、積極財政の限界も理解しており、「不景気打開の為に三年間は積極財政を断行する。」との方針の下で実行。そして昭和十年末、方針通り放漫財政を是正する方向に転換した。
近現代史の通説によれば、予算圧縮は「軍事費」も例外ではないとした為に軍部と対立し、二ヶ月後に陸軍「二・二六事件」で高橋蔵相(当時)を暗殺。それ以降の日本は「戦時財政」時代に入った。現在の金融緩和の程度は、「高橋財政」時代ではなく、昭和十五年以降の「戦時財政」時代の規模をも上回るもの。
金利が上昇すると
- 政府の「利払費」増加
- それに伴う政府予算の編成逼迫
- 日銀保有国債の「評価損」拡大;「日銀の保有債券評価方法は『償却原価主義』なので、含み損が決算に影響する事は無い。」と主張する向きもあるが、市場は評価損を認識している
- 日銀自身の「利払費」増加;金融機関から買い入れた「国債代金」は、日銀に当座預金として預けられている。その規模=約五百兆円の預金に利払いが発生する。一㌫の金利上昇で五兆円強。日銀の最広義の資本金等は約十兆円なので、二㌫の金利上昇の場合、一年超で債務超過に(増資等が無い限り)
- 日銀の今後の金融政策運営の自己矛盾;黒田総裁は「出口戦略」の手法を「金利を上げる」「BSを縮小する」の何れかと国会で明言。仮に金利引上げを先行させると、国債市場では投資家による売却が始まり、更に金利を上昇。その際、日銀は過度の金利上昇抑止の為に、国債を買い向かう必要が。それはBS拡大を意味する。つまり、金利引上げと量的緩和を同時に行う自己矛盾に陥る
撮影:岡本早百合
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