経団連が特許権侵害に対する「実効的な権利保護に向けた知財紛争処理システムの在り方」(案)へ遺憾の意

【ビジネス報道】 経団連(会長:中西宏明)は、平成三十一年二月九日の『「実効的な権利保護に向けた知財紛争処理システムの在り方」(案)への意見』を以って政府に対して遺憾の意を表した。特に、産業界 関係者との合意形成が不十分であった点と産業界 団体からの委員参加が認められなかった点を挙げた。経団連は、知財紛争処理のシステム見直しを急がない。


前者では、一九八国会(常会)での法改正が前提であったので時間的な余裕が無かった事を理由とした。後者では、「特許制度小委員会」の委員構成を変更して新検討をする事につき、小委員会の上部組織(産業構造審議会・同知的財産分科会)への無説明を問題とした。政府は、知財紛争処理のシステム見直しを急いでいる模様。


システムの見直し案には、特許権侵害に係る証拠収集の容易さ、倍数賠償、司法手続の明確化と訴訟費用の四類を挙げる。



<どの様なシステム変更なのか>

 三十回に及ぶ小委員会を経団連は、「制度の中身については一定の検討がなされたが、その前提となる立法事実や現状分析が極めて不十分である。」と指摘。制度内容も産業界の懸念が未払拭で、検討が不十分と手厳しい。経団連として今国会での法改正に拘らず、意見公募手続で得た意見を真摯に受け止め、検討継続を望んだ。


同委は、強制力のある証拠収集手続(新手続き)の導入を検討。新手続きでは、裁判所が必要資料の収集と報告書作成を専門家(弁護士、弁理士、研究者等)に命令ができる、というもの。命令前に裁判所は相手方へのヒアリング義務がある。命令発令要件は「必要性」「蓋然性」「補充性」「相当性」の四つ。この発令要件を充足するものとして、以下の六項目を申立事項としたい。

  1. 立証されるべき事実
  2. 収集対象となる文書や物品及びこれらと立証されるべき事実との関係
  3. 収集を行う場所
  4. 専門家が行うべき行為
  5. 特許権の侵害の蓋然性が認められる理由
  6. 他の手段では収集が容易でない事由


新手続きで訴えられた被告には、証拠収集への協力義務を課す。専門家の要求を拒むと、真実擬制として訴えた原告の主張が正しいと見做される。被告が敗訴しても刑事罰は想定しない。

裁判所の指定専門家には、秘密漏洩対策として刑事罰を設ける。また指定専門家につき、当事者が異議を申立てができる「忌避制度」を採用。忌避の申立ての却下決定には、「忌避申立人の不服申立て(即時抗告)」を認める。更に、申立てに対する裁判所の証拠収集の命令・却下に対し、「不服申立て手続(即時抗告)」も認める。


中小企業の訴訟に関する費用負担としては、弁護士費用等を敗訴者負担と考える向きがある。判例では実質一割程度しか弁護士費用が認められない。



上記の小委員会の案に対して経団連は、法改正を急ぐに足る立法事実は無く、外国制度の安易な摘み食いは日本の国益を害するとし、営業秘密漏洩の懸念払拭が「新手続」導入の大前提で、懲罰的賠償制度・利益吐き出し型賠償制度の導入前提の検討に反対。そして二段階訴訟制度導入を求める意見は殆ど無い、と全面的と言っても良い程に懸念を示した。


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